| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-354 (Poster presentation)

三瓶山火入れ草原における絶滅危惧植物ヤマトキソウの生育環境

井上雅仁(島根県立三瓶自然館)・高橋佳孝・堤道生(近中四農研センター)

ヤマトキソウはラン科の多年草で,北海道から九州の日当たりのよい山地草原に生育している.生育場所である半自然草原の多くは,管理放棄などにより面積が著しく減少しており,39の都道府県で絶滅危惧種に,2つの県で絶滅種となっている.

島根県三瓶山の半自然草原のなかには,毎年春の火入れが行われることでススキ草原が維持されている場所があり,そこには本種が生育している.一方,その分布は草原内で一様ではなく,今後の保全策を検討する上で,生育環境の違いを把握することは重要と考えられる.

そこで,三瓶山火入れ草原における本種の生育環境を明らかにすることを目的に,植生や光環境などの調査を行った.上記の草原内で本種が生育している場所と,生育がみられない場所を目視で選び,1m×1mの方形区を20箇所ずつ設置した(それぞれ生育区,対照区).植生構造の調査として,各方形区で植生高,出現する植物種の高さと被度を記録し,あわせて土壌硬度と相対光量子密度を測定した.また,個体群動態を調査するため,本種がまとまって生育する場所に4m×10mの調査区を設定し,本種のすべての個体の位置と高さを記録した.本区の生育環境については,1m四方に区切ったのちススキとネザサの被度,土壌硬度,相対光量子密度を測定した.

これらの結果,生育区の平均植生高は0.26m,平均植被率は87.8%であった.一方,対照区ではそれぞれ0.98m,97.5%であり,生育区に比べて優占種であるススキの被度が高い傾向にあった.また,土壌硬度と相対光量子密度も,対照区よりも生育区の方が高い傾向にあった.個体群動態の調査区でも同様の傾向がみられた.そのため火入れ草原の中では,植生高が低く明るい場所が,本種の生育環境として適していることが示唆された.


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