| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-361 (Poster presentation)

東海地方におけるカワヒガイの遺伝的集団構造

鈴木美優,北西滋*,向井貴彦(岐阜大地域科学)

コイ科カマツカ亜科カワヒガイSarcocheilichthys variegatus variegatusは,愛知県豊川以西の本州と九州を分布域とし、環境省レッドリストの準絶滅危惧に指定されている日本固有種である.近年,亜種関係にある琵琶湖固有のビワヒガイS. variegatus microoculusの侵入が日本各地で報告されており,遺伝的攪乱が危惧されている.本研究では,東海地方におけるカワヒガイの遺伝的集団構造と,ビワヒガイの侵入の現状の解明を試みた.岐阜県,三重県,滋賀県の計29地点で採集された253個体のmtDNAのCytb領域の部分塩基配列1135bpを決定し,遺伝的集団構造を調べた.系統解析にはKomiya et al.(2013)の琵琶湖,東海地方,近畿地方,中国地方,九州で得られたヒガイ属の42種類のmtDNAハプロタイプの塩基配列を含めた.近隣結合法による系統樹を推定した結果,これらのヒガイ属のmtDNAは東海地方と西日本地域の2つのグループに分けられた.得られたハプロタイプの分布と,集団間の分化を調べるために行った分子分散分析(AMOVA)とFSTの結果より,東海地方におけるカワヒガイ在来個体群の遺伝的集団構造として,岐阜県と三重県のカワヒガイが異なる遺伝的特性を有していることが明らかとなった.また,東海地方で採集されたヒガイ属の中には,西日本地域と同じ系統のmtDNAを持つ個体が含まれており,それらはKomiya et al. (2013)の琵琶湖を産地とするハプロタイプと一致した.したがって,西日本地域のmtDNAのグループに含まれたハプロタイプを有する個体のうち,岐阜県と三重県で採集された4水系6地点32個体は,在来範囲を超えて侵入したビワヒガイに由来すると推定された.


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