| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T11-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

群集生態学における種間相互作用論とその限界

近藤倫生(龍谷大・理工)

「種間相互作用が群集動態を駆動する」という種間相互作用論は、現在の群集生態学の基礎をなす仮説である。この仮説のもとでは、生物群集の動態は、多種の個体群動態モデルを相互作用項で関連させることで表現される。例えば、食物網の構造-動態関係は、近年、大きく理解が進んだ研究分野だが、そこでは捕食-被食関係によって連結された多種個体群動態モデルが中心的な役割を果たした。種間相互作用論に基づく数理モデルを利用することで、食物網構造に関する一般的な規則が「発見」され、それが動態•安定性に及ぼす影響が評価されてきた。しかし、食物網理論の発展に比べて、実証研究は大きく立ち後れているように思える。食物網理論の直接的な実証には、自然生態系における捕食-被食関係を特定した上で、多種の個体群動態をモニタリングし、両者の間の因果関係を明らかにすることが必要だが、このような研究は未だされたことがない。さらに、群集研究が進むに従って、種間には捕食-被食関係以外の極めて多様な相互作用が存在していること、種間相互作用の多様性のもとでは食物網理論は大きな修正が必要になることがわかってきた。群集生態学者は、いま種間相互作用論を巡る岐路に立たされているように思える。これからの群集生態学は、種間相互作用論をさらに追求して、多種多様な種間相互作用を一つずつ明らかにする複雑化•詳細化の道をたどるべきか。そうであるならば、種間相互作用ネットワークの構造を特定したり、多種個体群動態やその特徴(例えば安定性)を評価したりする良い方法はあるだろうか。あるいは、従来の種間相互作用論とは別の、新しい生物群集理解のための枠組みを模索すべきだろうか。群集生態学は、生態系動態の予測•制御を可能にするような技術を生み出すことはできるだろうか。この講演を通じて、群集生態学の現在の「立ち位置」を確認したい。


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