| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-I-283  (Poster presentation)

冷温帯アカマツ幼齢林と老齢林におけるNEPの経年変化

*小山悠太(早稲田大・教育), 小泉博(早稲田大・教育), 鈴木英里(東京工業大・院・生命理工), 墨野倉伸彦(早稲田大・院・先進)

 森林生態系の炭素収支は林齢によって異なるとされ、幼齢林(0~10年生)では特に大きく変化すると予想される。林齢差が生態系純生産(NEP)に及ぼす影響を同じ気候帯、樹種において比較した研究は少なく、幼齢林に着目した研究も少ない。本研究では、冷温帯のアカマツ幼齢林(7年生)と老齢林(93年生)に注目し、樹木の成長量とリターフォール量、土壌呼吸速度を測定し、バイオメトリック法によってNEPを算出し、両林齢区における2014年から2016年での炭素収支の経年比較を行った。また林床に到達する光量の多い幼齢林区においては下層植生の影響が大きいと予想されるので、下層植生の成長量についても測定した。

 NEPの経年変化は、幼齢林区では2014年の−1.27 tC ha-1 yr-1から2016年の5.75 tC ha-1 yr-1と著しい増加を示し、老齢林区では2014年の1.40 tC ha-1 yr-1から2016年の2.18 tC ha-1 yr-1と大きな増加は見られなかった。幼齢林区での著しい増加は、樹木の成長量が2016年で2015年の約2倍となっていたことに起因すると考えられる。幼齢林区は未だ伐採による土壌の攪乱や土壌有機物の残存による炭素放出量が高いと考えられるが、地上部植物体の炭素固定能力の著しい上昇によってNEPは正の値となった。これは幼齢林が炭素の放出源から大きな吸収源に変わるNEPの転換期にあり、伐採後の森林の炭素収支を評価する上で重要であると示唆された。また下層植生の成長量が1.69 tC ha-1 yr-1と純一次生産量の約20%に相当し、吸収量の中で大きな割合を占めていたことが明らかになった。
 以上より、幼齢林区は6年生から7年生にかけて炭素の放出源から吸収源に転換する時期であると示唆された。今後も幼齢林区での樹木の成長量や土壌呼吸量は変化していくと予想されるため、幼齢林におけるNEPの経年変化を解明することが必要であろう。


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