| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-I-286  (Poster presentation)

気候の年々変動に対する植物の生長と生産力の応答シミュレーション

*渥美和幸, 太田俊二(早稲田大学・人間科学研究科)

植物は気候資源を利用して光合成を行い,その生産量は葉や他の器官の呼吸や生長などで消費される。そのため,その生産力や生長は気候の変動に大きく影響されるが,これまでの研究は年間値を使用したものが多く,影響を受けやすい時期やその要因はあまり知られていない。本研究では,植物の生長と生産力に及ぼす影響の強い気候資源とその時期を明らかにするため,著者が開発した植生モデル(BE4P)を用いて植物の生長と生産力のシミュレーションを行った。さらに,これらの変動と気候との関係を観測と比較することで,BE4Pが気候の年々変動に対する植物の応答を正しく表現できるか確かめた。
本研究では,さまざまな植生や気候帯に属するフラックスサイトを対象にしてシミュレーションを行った。年々変動を調べるのに十分な期間を確保するため,モデルの入力値には,気候モデルが出力した各サイトに対応するグリッドのデータ(20年分)を用いた。植物の生長と生産力に影響を及ぼす気候資源として気温(Ta),日射量(S),土壌含水量(θ)の3要素を考慮した。気候資源と総一次生産力(GPP)のそれぞれについて旬別(約10日)に偏差(20年平均からの差)を算出し,両者の関係を調べた。同様にして,葉の生長の指標である葉面積指数(LAI)と気候資源の関係も調べた。
落葉広葉樹は,GPPは展葉期や落葉期ではTaSとの相関が強かった。LAIも同様の関係がみられたが,最盛期でθとの関係がGPPに比べ強かった。草本は,GPP,LAIの両者ともθに強く応答する期間が長かった。これらの結果から,植物の生長や生産力の年々変動を理解するためには,植生タイプや生育段階などの生理生態学的特性を考慮することの重要性が示唆された。シミュレーションではGPPがθに対してより強く応答する傾向があり,水環境が植物の生産力に及ぼす影響をモデルに正しく反映させる必要があるだろう。


日本生態学会