| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-K-332  (Poster presentation)

チョウセンカマキリに対するハリガネムシの寄生コストと形態改変

*黒田剛広, 高見泰興(神戸大・人間発達環境)

寄生者は質の低い寄主の回避や操作を通じて,寄主から効率よく搾取するような適応進化を遂げると考えられる.寄主の質に影響する要因として,雌雄の体サイズ差や性的共食いが挙げられる.カマキリの雄は相対的に体が小さく資源が限られ,また雄は雌に捕食されるリスクがあるため,寄生者であるハリガネムシにとって質が低い寄主である.よって,体サイズに性的二型があり性的共食いを伴うカマキリと,その寄生者ハリガネムシは,寄主の質が寄生者の適応進化に及ぼす影響を調べるための良い材料である.
カマキリに寄生するハリガネムシは,その生活史から寄主の性を選べないと考えられる.よって,雄のカマキリに寄生したハリガネムシにとって,資源をうまく利用し,性的共食いのリスクを避けるように寄主の形質を操作することは適応的だろう.しかし,ハリガネムシがカマキリの形質に与える影響に関する研究は少ない.
本研究は,ハリガネムシがカマキリに与える寄生の影響を明らかにし,寄主の性に応じた搾取調節の検証を目的とした.雄の寄主は雌に比べて小型であるため,雌と同様の搾取は寄主の衰弱や早期の死亡につながる可能性がある.よって,ハリガネムシは,自らの成熟,脱出を確実にするため,雄の寄主からの搾取を雌に比べて少なくすると予測される.
野外で寄生済みと未寄生のカマキリ幼虫を捕獲,飼育して得た成虫の形態を測定した結果,予測通り,寄生された雄は体の各部位の縮小がほとんど見られなかったのに対し,寄生された雌には縮小が見られた.雌雄間で死亡率,羽化率には差がなかった.また,成虫から脱出したハリガネムシは,雄に寄生していたものが有意に軽かった.これらの結果は,寄生者ハリガネムシは,質の低い寄主である雄カマキリからの搾取を最低限に留める一方で,質の高い寄主である雌カマキリからは資源を多く奪うことを示している.


日本生態学会