| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-E-163  (Poster presentation)

標津湿原の植生と保全上の課題

*神田房行(北方環境研究所), 川口小百合(北方環境研究所), 吉野邦彦(筑波大学大学院システム情報工学研究科)

標津湿原は北海道東部根室地方のポー川と標津川の間に形成されており、1979年に国の天然記念物に指定されている。一方で、戦後の開発により保全上の問題を抱えている。標津湿原の高層湿原域の中央部を中心に排水溝があり、ポー川へと湿原の水が排水されており、湿原の乾燥化が懸念される。現在の植生を概観するとシラカンバやトドマツをはじめとして木本類がかなりの本数入ってきており、1990年代の調査による植生と比較しても標津湿原の植生がかなり変化していることが分かる。特に高層湿原域にトドマツ、シラカンバ、センダイササ等も侵入してきており、湿原の乾燥化や樹林化が懸念される。
本調査は標津湿原を植生の面から調べたものである。特に2014年~2015年の調査ではドローンを使って比較的低い高度からの空中写真を多数撮影し、合成した画像から詳細な植生図を作成した。また、植生のモニタリングを行うため、2010年に永久コドラートを4地区に設定し、1年目にあたる2011年と5年目にあたる2015年に追跡調査を行った。また、トドマツやシラカンバ等の毎木調査と成長の調査を行った。トドマツの樹齢測定の結果、トドマツは主に1991年頃から湿原に侵入してきており、樹高の成長は3.8cm/年であり、現在も徐々に成長していることが分かった。シラカンバも成長しているが、成長が遅く、樹高で1.2cm/年で、枯死株も見られ、群落としては大きく拡大してはいないと思われた。その他カラマツ、アカエゾマツ、ハイマツ等が高層湿原に侵入しており、今後のモニタリング調査と対策が必要である。センダイザサも高層湿原や排水溝の周辺に分布しており、排水溝の影響が強い。標津湿原の保全対策としては排水溝からの排水を阻害するために一部土嚢による埋め立てを行った。また高層湿原に侵入したトドマツの伐採を行った。今後もモニタリングを継続し、埋め戻しの効果的な方策などを探っていく必要があろう。


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