| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-E-187  (Poster presentation)

北海道のオショロコマは人工の魚止めに追いつめられているか

*今村彰生, 伊藤大雪(北海道教育大学旭川校)

オショロコマは、河川の最上流域に生息するサケ科イワナ属の魚類である。国内では北海道にのみ生息し、通常は陸封型である。河川工作物による生息地の分断やなど、オショロコマの生息域の縮小や個体数の減少が危惧されている。
本研究では、大雪山系の上流域において、人工の段差構造物によってオショロコマの個体数が減っているか、構造物の上下での相違や構造物の高さなどに着目して解析した。
大雪山系の3河川、ピウケナイ川、クワウンナイ川、ポンアンタロマ川において、人工の段差構造12地点と滝3地点の計15地点29調査区で調査を実施した。このとき、それぞれの段差構造の上側と下側で流程に沿った15〜350 mの範囲でオショロコマの釣獲調査を実施した。
滝などの自然構造と異なり、人工の段差構造は周辺の河畔植生をも変化させる。その影響が周辺の動物相に表れ、オショロコマの食性にも変化が起こる可能性がある。そこで調査地の植生調査を実施した。
河畔林の種多様度に対して、GLM解析を行った結果、段差構造の累数が負の影響を与えていた。調査区ごとのオショロコマの捕獲数に対して、調査河川をランダム効果としたGLMM解析を行った結果、段差の上側で少なく、滝よりも人工の構造物で少なく、構造物の高さから負の、植生の多様度から正の影響を受けていた。個体ごとのオショロコマの湿重量に対してGLM解析を行った結果、水温から正の影響を受け、段差構造の累数から負の影響を受けていた。
以上から、人工の段差構造が上流域を好むはずのオショロコマに対して「上流域ほど条件が悪い」という状況を出現させている可能性がある。段差構造は、オショロコマの個体群に対して直接的な負の影響を持ち、加えて河畔植生の多様度を低下させ、それが餌生物相の多様度や数の低下をもたらすという、負の間接効果も持ちうることが示唆された。


日本生態学会