| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-F-195  (Poster presentation)

土砂バイパストンネルを用いた人為的な土砂供給に対する淡水魚類の応答事例

*小野田幸生, 末吉正尚, 宮川幸雄, 堀田大貴, 萱場祐一(土木研究所)

ダム下流への土砂供給は,ダムの堆砂問題の解決に加え土砂輸送の連続性の確保も期待される操作であるが,人為的な土砂供給となるため水生生物への影響の有無について調べる必要がある.最近,ダム湖へ流入する土砂をダム下流へと通過させる土砂バイパストンネル(BT)が導入され始めているが,その影響に関する知見は十分に蓄積されているとは言えない.特に,土砂供給によって付着藻類や水生昆虫の種類や現存量などが変化することを考慮すると,それを餌とする魚類へ影響が伝播する可能性がある.
そこで,2016年9月から運用され始めた小渋ダムの土砂BTの運用前後で,小渋ダムのある小渋川(ダム上流1地点,BT下流3地点)および対照河川として隣接する遠山川(3地点)において魚類調査を行った.各調査地点の瀬の区間で電気ショッカーを用いて45分間魚類を採集し,全長65 mm以上の個体については麻酔後ストマックポンプを用いて胃(消化管)内容物の採取を行った.採取した内容物を10%ホルマリンで固定後,主要な内容物を記録した.なお,小渋川のBT下流および遠山川で,共に多く採集されたウグイを比較対象とした.
ウグイの消化管内容物は,小渋川のBT下流の3地点内と遠山川の3地点内それぞれで似たような変化の傾向を示した.小渋川のBT下流では,事前には藻類が多く利用されたが,事後には水生昆虫の利用が増加した.対照河川の遠山川では事前・事後ともに水生昆虫が主に利用された.対照河川で消化管内容物のシフトが無かったことから,小渋川のBT下流におけるウグイの消化管内容物のシフトは季節的な変化とは考えにくい.したがって,小渋川のBT下流のウグイの消化管内容物の構成が対照河川のそれに近づいたことは,土砂バイパストンネルの運用による効果として検出された可能性がある.今後の精査は必要であるものの,興味深い結果であると考えられる.


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