| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-I-277  (Poster presentation)

フタバガキ科の種子は食われやすいか?:熱帯雨林103樹種の虫害率比較

*保坂哲朗(首都大学東京)

フタバガキ科は東南アジア低地熱帯雨林の骨格を形成する優占種であるが、群集レベルの顕著なマスティング(結実量の豊凶)を行うことでも知られている。一般に、植物のマスティング現象を説明する仮説の一つに「種子食者飽食仮説」があり、フタバガキ科においても有力視されている。この仮説は、凶作年には十分な種子がないために、種子食者の個体群密度が低下する一方、豊作年には急激な種子生産量の増加により、種子食者の個体群増加が追いつかず、食害を免れる種子の割合が増加するとし、マスティングは植物の繁殖戦略として進化したと考えるものである。さらにSilvertown(1980)は、哺乳類や鳥類のようなジェネラリストの種子食者よりも、昆虫のようなスペシャリストに多く食害される樹種の方が、マスティングを進化させやすいと考えた。したがって、フタバガキ科の種子は非フタバガキ科の種子に比べ、より昆虫に食害されやすいのかを検証すれば、フタバガキ科のマスティング現象の究極要因に関する重要な示唆が得られるだろう。しかしながら、東南アジア熱帯雨林の広範な樹種の種子食害率に関するデータはそもそも存在しない。そこで、本研究では半島マレーシアのパソ森林保護区において2014~2016年に103樹種約15,000個の果実を集め、それらの果実からの昆虫出現頻度(果実1個当たりの出現個体数)をフタバガキ科(27種)と非フタバガキ科(28科76種)で比較した。その結果、主な種子食昆虫と考えられるゾウムシ類、小蛾類、またこれらの種子食性昆虫に寄生するハチ類のいずれの出現頻度も、フタバガキ科は非フタバガキ科に比べ有意に高かった。また、非フタバガキ科を各科に分けて比較しても、フタバガキ科は最も種子食昆虫の出現頻度が高い科であった。したがって、フタバガキ科は非フタバガキ科に比べて昆虫による種子食害率が高く、そのためマスティングによる種子食害率の低減効果が大きい可能性がある。


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