| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-I-289  (Poster presentation)

匂いを介した植物間コミュニケーションと土壌条件

*塩尻かおり(龍谷大学農学部), 潮雅之(龍谷大学理工学部), 安東義乃(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)

植物は病害虫から身を守るため、様々な方法で防衛を行っている。その防衛は恒常的な防衛【恒常防衛】と被害を受けて誘導される防衛【誘導防衛】とに分けられる。誘導防衛は必要なときにのみ防衛に投資するため、恒常防衛よりも低いコストで効率的に防衛が達成できると考えられてきた。しかし、誘導防衛は被害を受けなければ防衛が誘導されないため、防衛に伴う適応度の低下を検出しても、その低下は防衛のコストによるものなのか、植物体への被害によるものなのかが、区別できず、現在までに誘導防衛のコストを直接検出した例は知られていない。
 近年、周辺の被害植物の匂いを健全の植物が受容することで防衛が誘導され、その後の匂い受容個体の被害が軽減されるという現象が報告されている。この現象では匂い受容個体は被害を受けずに防衛が誘導されるため、仮に適応度の低下が検出されれば、それは誘導防衛のコストによるものと考えられる。そこで、我々はこの現象を利用し誘導防衛のコストを定量化するため以下の圃場実験を行った。
 実験にはセイタカアワダチソウ (Solidago altissima) を用いた。本種は多年生草本で、地下茎と種子で繁殖し、被害個体の匂いを受容することで誘導防衛を行う。誘導防衛にかかる相対的なコストは、土壌栄養条件に依存して変化する可能性がある。そこで、富栄養区と貧栄養区として、それぞれ180株用意し、それの半数に被害個体の匂いを受容させた。その後、富栄養土壌と貧栄養土壌の野外圃場に、匂いを受容した/しない株をランダムに配置し、適応度の指標として、被害葉数、花サイズ、地下茎長等を測定した。その結果、富栄養土壌では匂い受容株で匂い非受容株より被害葉数が少なかったのに対し、貧栄養土壌においては匂い受容の有無で被害葉数はかわらなかった。発表ではその他の形質 (総葉数・草丈・地下茎重さなど) についても報告し、誘導防衛のコストを考察する。


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