| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-02  (Oral presentation)

トゲオオハリアリにおけるワーカー間の分業の分子基盤

*宮崎智史(玉川大学), 下地博之(関西学院大学), 池主格(玉川大学), 鈴木諒平(富山大学), 前川清人(富山大学)

社会性ハチ目昆虫では女王が繁殖を担い,繁殖を行わないワーカーがその他の労働を担う.その労働タスクは,ワーカーの齢や社会環境に応じて柔軟に変化する.セイヨウミツバチや,アリ類,カリバチ類の数種では,ワーカーの加齢に伴って卵黄タンパク質前駆体遺伝子vitellogeninの発現低下やcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子foragingの発現上昇といった生理状態の変化が生じ,内役から外役への移行 (齢差分業) が制御される.一方,ミツバチでは内役の除去などの社会環境の変化が老齢個体の内役化を誘導することが知られるが,その分子基盤については明らかにされていない.本研究ではアリの中でも祖先的な形質を有し,明確な齢差分業を示すトゲオオハリアリDiacamma sp.を対象に,社会環境に応じたワーカーの分業体制の変化と,その分子機構について検証した.まず,コロニー内の全ワーカーを個体識別して行動観察を行い,その行動パターンから内役に従事する個体と外役に従事する個体を判別した.それらのvitellogenin相同遺伝子 (Dia_Vg) とforagingの相同遺伝子 (Dia_for) について相対発現量を比較したところ,Dia_Vg発現量は内役で有意に高かったが,Dia_for発現量は両者で明瞭な違いはみられなかった.続いて,コロニー内のワーカーから外役個体以外を人為的に除去したところ,老齢であるはずのワーカーの2.6-35.7%で内役への移行が誘導された.内役へ移行したこれらの個体は残りの外役に比べてDia_VgDia_forの発現量が有意に高く,その発現量は通常の内役個体と同等以上にまで上昇していた.これらの結果から,トゲオオハリアリでは加齢による労働タスクの移行がDia_Vgを介して生じるのに対し,社会環境の変化を介した移行にはDia_VgDia_forの両方が関与すると示唆された.


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