| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-03  (Oral presentation)

ナミアゲハの産卵行動における視覚の役割

*長屋ひろみ, Finlay J Stewart, 蟻川謙太郎, 木下充代(総合研究大学院大学)

メスのナミアゲハ(Papilio xuthus、以後アゲハ)の産卵行動における視覚の役割については、断片的にしかわかっていない。ところが、彼らが多くの植物の中から食草である柑橘類の木を選ぶ時に化学情報を使うことは、よくわかっている。まず、遠方から匂いを頼りに食草付近にたどり着く。そして、葉に降りて前脚で葉の表面を叩き、その葉に含まれる化学成分によって柑橘類かどうかの最終確認をするのである。一方、求蜜行動中のアゲハは、優れた色覚や偏光視を使って花を見つける。このことから私たちは、産卵行動中のアゲハが視覚を使って、食草の中から産卵に適した葉を選ぶと考えた。そこで、アゲハの産卵行動を実験室で観察してみると、アゲハはカゴの上部から目的の葉に直線的に近づき、個体によらず特定の葉に偏って卵を産みつけた。食草の匂いが満ちた室内では、葉に触れる前に味や匂いの違いで葉を選ぶのは難しいはずなので、この葉の選択には視覚が関わっている可能性が高い。
 一般的にアゲハは、より若い葉に卵を産むと言われている。それゆえ私たちは行動実験の結果から、アゲハが複数の視覚情報を組み合わせてより若い葉を選んでいると仮説を立てた。まず、産卵数の多い葉と少ない葉の①角度、②湾曲率、③丸さ、④緑色波長領域(530-570nm)の反射率、⑤明るさ、葉の反射光に含まれる⑥偏光振動面の角度と⑦偏光度を測定し、産卵数との相関を調べた。その結果、産卵数の多い葉ほど、平らで明るい緑色でかつ偏光度は低くなった。さらに、2017年4月に芽吹いた葉(古い葉)と7月に芽吹いた葉(若い葉)の7つの視覚的特徴を9月に測定して比較した。その結果、若い葉の方が明るく偏光度は低いことがわかった。このふたつの視覚情報は、産卵数の多い葉に含まれていた特徴である。以上より私たちは、アゲハが産卵のためにより若い葉を少なくとも明るさと偏光度の違いで、選んでいると考えている。


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