| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-09  (Oral presentation)

知床半島ルシャ地区で生育したヒグマの大人メスが単身時期にカラフトマスを捕食する際の狩の方法と食事作法

*小宮山英重(野生鮭研究所)

2017年10月に知床半島ルシャ地区でカラフトマスを捕獲し、摂食するヒグマの行動を観察した。調査は11日間実施し、23頭のクマを記録した。行動観察は、道路脇に停車した車の中から目視でおこなった。同時にクマの個体識別と行動の特徴、捕獲された魚の記録をデジタルカメラおよびデジタルビデオカメラで撮影し、得られた映像を解析した。観察は、可能な限り、好天の日を選び、目視可能な日の出前から日没後までの時間帯で行った。観察域の面積は約57haで、カラフトマスが自然産卵している川が3本流れている。2004年から2009年までの秋季に同様の調査を204日間行い、のべ約80頭のクマを個体識別し、その行動を記録している。今回の報告は、それら資料と対比させながら2017年の11日間の遭遇率80%以上であった、母熊が判明している、2017年10月は単身だが子育て経験のある、大人のメス3個体の狩の方法と食事作法の記録をまとめた。捕獲された魚は雌雄を区別し、餌としての価値を5ランク(S(未熟銀毛)、A(産卵前ブナ)、B(産卵途中ブナ)、C(産卵後ブナ)、D(死体))に分けて記録した。狩の方法は、追狩と待狩(立待、坐待)、拾得などに分け、摂食時の姿勢は立食、坐食、伏食などに分けて記録した。2002年生まれの15歳(個体名:ズキン)は、若齢時と同様に狩が上手で、合理的な方法で主にAランクの魚を選んで捕獲し、1日当たり最多の25匹前後の魚を摂食した。また、魚のランク別に坐食と立食を使い分けていた。13歳(クリツキ)と10歳(クビカザリ)の個体は、母熊と同様の狩の方法や食事作法を習得し、1歳で親から独立以降は母熊が狩を行っている同じ淵や瀬で同時に狩ができる地位を確保していた。独自の生活能力が高いか、母熊の行動様式を習得する能力が高く、かつ母熊の活動域から排除されない賢い行動ができるメス個体が生育地で自身の生活圏を維持し続ける確率が高いと推定された。


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