| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-175  (Poster presentation)

コクヌストモドキにおける歩行能力への人為選抜が生活史形質へ及ぼす影響

*松村健太郎, 宮竹貴久(岡山大学院環境生命)

多くの動物は移動を行うが、その移動能力にはしばしば集団内に変異が見られ、高い移動能力を持つ個体や移動能力の低い個体が存在する。数多くの先行研究は、個体の移動能力は生活史形質と相関関係にあり、異なる移動能力を持つ個体間で利益とコストがそれぞれ存在することを報告している。このトレードオフの存在により、移動能力の変異が維持されると考えられている。しかしながら、その数多くの先行研究はしばしば翅二型昆虫の飛翔を対象としており、その他の移動手段を持つ動物を対象とした研究は数少ないままである。そこで本研究は、歩行が基本的な移動手段であるコクヌストモドキ(Tribolium castaneum)を用いて、歩行能力と生活史形質は相関の関係にあるのか、また異なる歩行能力を持つ個体間でトレードオフは存在するのかを調査した。
実験では、まずコクヌストモドキの歩行能力に対して二方向人為選抜を行い、遺伝的に歩行能力の高いLW系統と低いSW系統を確立した。次に、これらの選抜系統を用いてオスの繁殖形質の測定を行った。その結果、LW系統のオスは交尾成功を増加させるが、SW系統は受精成功を増加させることが明らかになった。この結果は、歩行能力の高いオスは交尾前の性選択に、歩行能力の低いオスは交尾後の性選択に多く投資していることを示唆している。またメスについては、繁殖形質と飢餓耐性を測定した。その結果、LW系統のメスは卵サイズが小さく、飢餓耐性も低いことが明らかになった。この結果は、メスにおける高い歩行能力は生活史形質においてコストであることを示唆している。以上の結果から、本種の歩行能力は生活史形質に影響を及ぼすことが明らかになった。しかしながら、本研究結果には、翅二型昆虫を用いた先行研究結果と異なる点も多く見られ、これは移動手段の違いが生活史形質に異なる影響を及ぼす可能性を示している。


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