| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-177  (Poster presentation)

イワナ稚魚の行動に砂防ダムが与える影響の検証

*山田寛之(北大・水産・4年), 榎本尊(北大・水産・4年), 和田哲(北大・水産・教授)

 砂防ダムは河川を分断するが、イワナではその上流に個体群が存続することが知られている。イワナは砂防ダムの上流から下流へ流下すると上流に復帰できないため、上流個体群では流下を防ぐ形質が進化している可能性がある。また、そのような形質は、遊泳力が低いが雪解けで増水する時期を過ごす稚魚で顕著に表れることが期待される。
 本研究では砂防ダムがイワナ稚魚の形質に与える影響を検証するため、砂防ダム上流のイワナ稚魚 (ダム有群) と解放支流のイワナ稚魚 (ダム無群) で行動・形態比較を行った。行動については、日中と夜間の2条件下で1個体につき10分の動画撮影を行い、着底行動時間、摂餌行動回数、最大浮上距離を記録した。
 日中の着底行動時間は、ダム無群よりもダム有群の方が有意に長かった。これは、ダム有群の方が日中の着底性が高いことを示唆する。一方、夜間の摂餌行動回数及び夜間の最大浮上距離は、ダム無群よりもダム有群の方が有意に小さな値を示した。ダム有群における夜間の低い行動性は、河床に対して視認性が損なわれる夜間の流下を防ぐ役割を持つと考えられる。一方、日中の高い着底性に関しては、日中の摂餌行動回数にダム無群との差がなかったことから、ダム有群がより徘徊性の低い摂餌戦略をとって偶発的な流下を防いでいると考えられる。また、形態比較の結果、ダム有群で頭長、背鰭長、尾柄高が有意に短かった。遊泳力に関わる尾柄高と背鰭がダム有群で短かったことは、ダム有群の徘徊性の低い摂餌戦略と関連する可能性がある。頭長は餌生物の大きさが関係することが他の生物で知られている。本種の頭長の変異も各環境に生息する餌生物の違いに起因する可能性がある。以上のことを踏まえ、本研究から、砂防ダムがイワナ稚魚の形質に影響を与えていることが示唆された。


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