| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-183  (Poster presentation)

他者の恋人は魅力的:ホンヤドカリオスの配偶者選択における社会情報利用

*小黒歩(北大院水産), 和田哲(北大水産科学研究院)

 動物は資源 (i.e., 餌, 生息地, 配偶者) の質を推定する際に、自身の調査や体験から集める情報 (独自情報) の他に、他個体の振る舞いから間接的に得られる情報 (社会情報) を利用することが広く知られている。ホンヤドカリ Pagurus filholi のオスは繁殖期に交尾前ガード行動を示し、ガードされているメスを巡ってオス間闘争を行う。オスはメスの性フェロモンを感知しガードに足るメスかどうかを判断しているが、岡村ら (2010) では空の貝殻を付着したオス (疑似ガードペア) に対してもオスは闘争を仕掛けることが示されている。このことから、本種のオスにとって「他のオスにガードされている」という情報がメスの質を示す社会情報として利用されていることが示唆される。本研究では、本種のオスがメスを評価する際に上記の社会情報を利用するかどうかを検証した。

 野外でメスをガードしていなかったオス (単独オス)、野外のガードペアを採集し、次の様な実験を行った。着目するオスがそれぞれ (1) 単独の場合、(2) 既にメスをガードしている場合の2種類について「以前にガードしないことを選んだメスが、他のオスにガードされた状態で現れた」という状況を作出しそれぞれのオスの行動について観察し記録した。対照実験として、オスが以前にガードしないことを選んだメスを再び単独で提示し、その場合のオスの行動について記録した。

 本実験の結果を解析したところ、本種のオスは、自身が単独かメスをガード中かにかかわらず社会情報を利用することが示唆された。しかし闘争前の社会情報は、相手からメスを引き離してガードした後には継続されておらず、このことは、オスが社会情報によって相手のメスの質を過大評価して闘争に臨んでいたことを示唆する。ヤドカリ以外の動物でも、資源を先有する個体に他個体が闘争を挑む状況では、社会情報の影響による資源の過大評価が起こっているのかもしれない。


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