| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-200  (Poster presentation)

奈良公園におけるニホンジカのおじぎの機能

*西山若菜, 和田葉子, 和田恵次, 遊佐陽一(奈良女子大学)

 奈良公園のニホンジカは、鹿煎餅の提供者に対して行うおじぎに似た誇示行動(おじぎ行動)を行うことで知られている。おじぎ行動のように、ヒトと野生動物の間で異種間コミュニケーションがみられ、かつある個体群に特有の文化的行動であることが示唆されている例は稀少である。しかし、おじぎ行動に関する研究はほとんど行われておらず、シカにとっておじぎを行う意義は不明である。そこで、おじぎ行動を異種間コミュニケーションとして捉えた場合、おじぎを通してシカがヒトから利益を実際に得ているのか、シカとヒトはそれぞれおじぎをどのように捉えているのかを明らかにすることを目的とした。
 おじぎ行動の回数と鹿煎餅獲得回数との関係を調べた結果、おじぎ回数が多いほど煎餅獲得回数は多かった。加えて、鹿煎餅を提示した際はほとんどのシカがおじぎを行い、鹿煎餅を持っていない場合はほとんどのシカがおじぎを行わなかった。以上から、シカは鹿煎餅を獲得するためにおじぎを行っており、積極的におじぎを行うことは煎餅獲得に有利であると考えられた。また、鹿煎餅を提示してシカを焦らし続けたところ、攻撃を行ったシカほど短時間に頻繁におじぎを行ったが、おじぎ行動そのものには攻撃の要素はなく、攻撃を行うか否かは個体の気性によるものと推察された。ヒトに対してシカとの接触後に行ったアンケートでは、「シカのおじぎをどう捉えているか」という質問に対し、「催促」がもっとも多かったものの、「あいさつ」「感謝」など回答にばらつきが見られた。以上から、奈良のシカが行うおじぎ行動は、シカにとっては鹿煎餅を獲得するための催促的な行動であるのに対し、ヒトにとっての意味は多様であり、表面上は異種間コミュニケーションが成立している面もあるが、両者にとっての意味には若干のずれがあると考えられた。


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