| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-232  (Poster presentation)

琵琶湖におけるコイ2型の浮力調節能の違いに対応した採餌戦略

*吉田誠(東大大海研), 馬渕浩司(国環研琵琶湖分室), 佐藤克文(東大大海研)

日本の自然水域には在来のコイと,大陸に由来し各地で盛んに放流された導入コイが混在し,交雑の影響の少ない在来コイは現在では琵琶湖の沖合に残存するのみである.典型的な琵琶湖在来コイの体型,うきぶくろ,鰓耙,消化管にみられる特徴から,在来コイは沖合(水深数十mに達する)で活発に深度を変えて動物性の餌を捕食していると推測されるが,その実態は直接観察が困難なため不明な部分が多い.
 本研究では,琵琶湖沖合におけるコイ2型の採餌生態の解明を目的として,2015年10月から2017年9月にかけて,在来コイ2個体および導入コイ5個体に行動記録計を装着して湖心付近で放流し,滞在深度,遊泳速度および運動強度を1週間にわたり記録した.導入コイ3個体には同時にビデオロガーも装着し、放流から3日後の日の出以降3-5時間の水中映像を記録した.導入コイ5個体中1個体は水深20m以浅の浅場に滞在し,湖底で摂餌を繰り返す様子が観察された.残りの4個体は放流後に深度40m以深まで潜降したあと再度表層に浮上することはなかった(深層の高い水圧でうきぶくろ中の気体を失って十分な浮力を保持できなかったためと考えられる).在来コイ2個体のうち1個体は放流期間を通じて水深10m以浅の浅場で過ごし,もう1個体は深度6-10mの表層を主に泳ぎ,ときおり30m以深への潜降を繰り返していた.頻繁な鉛直移動をみせた在来コイ1個体について,潜降時と浮上時の遊泳速度および運動強度から深度毎の浮力状態を推定したところ,滞在時間割合の最も高かった深度6-10mでほぼ中性浮力を保持し,それより深い深度では負の浮力を示した.加えて,小刻みな加速を伴う活発な遊泳が深層でみられたことから,在来コイは深層でもうきぶくろ中に気体を保持し,中性浮力を保てる表層帯と餌のいる深層の間で鉛直移動を繰り返しながら,湖底付近で活発に採餌していると考えられた.


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