| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-385  (Poster presentation)

ニホンジカの多雪地における季節移動と生息地利用
The seasonal migration and habitat use of sika deer in a heavy-snow region

*小林春香(東京農工大学), 宇野壮春(フォーエムカンパニー), 千本木洋介(南会津町農林課), 横山実咲(東京農工大学), 遠山泰(東京農工大学), 奥田圭(広島修道大学), 梶光一(東京農工大学)
*Haruka KOBAYASHI(TUAT), Takeharu Uno(Four-M Company), Yosuke Sembongi(Minamiaizu Town), Misaki Yokoyama(TUAT), Yutaka Toyama(TUAT), Kei Okuda(Hiroshima Shudo University), Koichi Kaji(TUAT)

 近年、ニホンジカの分布域は、多雪地である東北地方にまで拡大してきた。本地方は、人口減少・超高齢化が進んでおり、今後、効率的で持続可能な野生動物管理が求められる。しかしながら、多雪地におけるシカ個体群の生態的な基礎情報は乏しい。そこで本研究では、豪雪地帯である福島県南会津町に新規流入したシカ個体群を対象に、行動様式を明らかにすることを目的とした。
 同地域において、2017年8~10月にメス3個体、オス1個体にGPS発信機を装着し、2019年1月まで追跡した。その結果すべての個体において、春期および秋期に季節移動が確認され、メスは約26 km南部の栃木県北部において越冬した。各メス個体の秋期および春期の季節移動の往復経路は、ほぼ同一であった。また、メスの季節移動の開始時期は、すべての個体においてほぼ一致しており、移動が同調していることが示唆された。一方、オスはメスよりも遅れて越冬地への移動を開始し、メスの越冬地よりも北部の地点において死亡した。各個体の移動経路には、高標高域が利用されており、山地を超えて越冬地および夏期生息場所に移動していることが示された。各個体の行動圏面積は、2個体は夏期に比べて冬期が小さく、1個体は大きかった。また、本地域における各個体間の環境選択性には、共通性が認められず、個体によって選択性が異なることが示唆された。
 GPS発信機を装着したすべての4個体おいて、県境をまたいだ季節移動が確認されたことから、当地域におけるシカの管理計画は、広域域な観点で他県と連携して策定する必要があるだろう。本研究では、福島県および南会津町の複数の事業によって得られたデータを集約し、一元化できたことで、南会津町に生息するシカの時空間的な行動様式の概略を掴むことができた。今後、シカ個体群の新規流入が予想される地域では、少数個体でもGPS発信機を用いた調査を実施していくことが、管理戦略を考える上で重要だろう。


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