| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-388  (Poster presentation)

Phyllonorycter属潜葉性小蛾類の個体群動態:生活史は気候の効果を変えるか
Climate effects on Phyllonorycter leafminers population dynamics associated with life stages

*松浦輝(北大 環境), 内海俊介(北大FSC)
*Akira MATUURA(Hokkaido Univ. Env. Science), Shunsuke Utsumi(Hokkaido Univ. FSC)

現在、全球的な環境変動に伴い、環境の変動に対する生物の応答に大きな興味が持たれている。特に、環境要因が生物の個体数に与える影響を明らかにすることは、その影響の正負を問わず、重要視されている。一般に、環境要因が生物に与える影響はその生物の生活史によって変化することが知られている。しかし、従来の環境要因と個体群動態を調べた研究では、月や年による環境要因の変動は考慮されるものの、生物の生活史段階の情報は重視されていない。近年、生活史の情報と合わせた個体群動態の研究が出始めているが、その数はまだ少なく、環境要因が個体群に与える影響の理解には遠い。
 本研究では、一年間に夏・秋二世代を生じるPhyllonorycter属の潜葉性小蛾類を用いて気候要因と個体群動態の関連を調べた。個体群動態の解析には、北海道石狩浜のカシワ林における1997-2005年、および2015-2017年の計12年、24世代の個体数データを用いた。気候要因は、石狩における日別の平均気温と降水量を気象庁のデータベースから得て、先行研究に基づいた生活史段階ごとの平均値として解析に用いた。
 状態空間モデルによる解析の結果、世代間で異なる要因が個体群動態に影響していた。夏世代から秋世代への個体数変動は夏世代の個体数で説明されるが、秋世代から翌年の夏世代への個体数変動は卵期から幼虫期の気温が影響を与えていた。一方、先行研究でしばしば言及される休眠期の気候要因の影響は弱いことが示唆された。これらの結果から、夏世代の個体数は環境変動によって影響を受ける可能性が高く、現状では気候要因の影響を直接受けていない秋世代の個体数は、夏世代の個体数変動を介して、間接的に気候変動の影響を受けると考えられる。本研究は、生活史と関連した個体群動態の情報を追加し、今後の環境要因と個体群動態の関連を調べる上で基礎となる。


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