| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-389  (Poster presentation)

絶対単為生殖型ミジンコの休眠に及ぼす日長と遺伝子型の交互作用
Genotype-specific diapausing of an obligate parthenogenetic water flea under different day-lengths

*丸岡奈津美, 占部城太郎(東北大院・生命)
*Natsumi Maruoka, Jotaro Urabe(Tohoku Univ.)

日本で記録されているミジンコ (Daphnia) 属のうち、平地湖沼に最も高い頻度で出現するのは北米から侵入したDaphnia pulexである。日本に分布しているD. pulexは絶対単為生殖型であり、4クローン系統の集団 (JPN1-JPN4) が確認されている。このうち、JPN1系統とJPN2系統では、侵入年代は数百年前から数千年前と推定されており、日本に侵入した後に分岐したと考えられる複数の遺伝子型が存在する。これまでの研究において、D. pulexのうち、JPN2系統は、餌を巡る競争に劣位でありながら、他の同種系統と複数湖沼で共存していることが明らかとなっている。ミジンコ属は藻類を共通の餌とするため、野外では餌を巡る強い競争関係にあり、消費型競争に優劣のある複数系統の共存は競争排除則と矛盾する。そこで本研究では、競争劣位系統は、競争を回避するために高頻度で休眠卵を生産することで個体群を維持させているのではないかとの仮説を立て、その検証実験を行った。まず、D. pulexの4系統の各クローン (JPN1は7遺伝子型、JPN2は5遺伝子型、JPN3とJPN4はそれぞれ1遺伝子型) を対象に、休眠卵生産のトリガーとして知られる日長条件を変化させた場合の休眠卵の生産頻度応答を飼育実験により調べた。
その結果、同じ系統内でも遺伝子型により休眠卵生産頻度は大きく異なっていたため、どの日長でも系統間では休眠卵生産頻度に有意な差はみられなかった。しかし、競争劣位系統であるJPN2系統では、どの日長でも高頻度で休眠卵を生産する遺伝子型がみられた。これら結果は、休眠卵生産は遺伝的に容易に変化しやすい”生活史形質”であり、JPN1やJPN2系統内でみられる休眠卵応答の違いは、日本への侵入後に適応変化した遺伝的に変異する生活史形質であること、よって、競争に劣位な遺伝子型でも休眠卵生産を高めた変異体は、休眠すなわち生育期間の“ニッチシフト”により他の遺伝子型と共存可能となった可能性があることを示唆している。


日本生態学会