| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-392  (Poster presentation)

メタ個体群動態を駆動するパッチの質の時間変動:共生アリと攪乱のタイミング
Temporal variation of patch qualities driving metapopulation dynamics: mutualistic ants  and timing of disturbance

*出戸秀典, 宮下直(東京大学)
*Hidenori Deto, Tadashi Miyashita(Tokyo Univ.)

メタ個体群動態の研究では、パッチの質が移動分散や絶滅、(再)定着に強く影響することが示唆されてきたが、最近では植生遷移や攪乱によりパッチの質そのものが時間変動し、それがメタ個体群動態の駆動要因となっていると考えられている。しかし、野外でパッチの質を決めるプロセスは単一とは限らず、複数のプロセスの組み合わせでパッチの質とその動態が決まる可能性が高い。本研究では、人為攪乱が卓越した農地景観に生息するミヤマシジミ(絶滅危惧IB類)を対象に、農地の畔や土手の草刈りという人為攪乱がパッチの質をダイナミックに変動させ、それが局所やメタ個体群レベルでの動態に影響を及ぼしていることを明らかにした。ミヤマシジミの幼虫はコマツナギのみを食草とするため、パッチの特定は容易である。パッチの質の構成要素として、成虫では吸蜜資源(花数とソバ畑面積)および総合的な環境指標となる植生高、幼虫では共生アリの密度と食草の葉の若さを扱った。解析は、幼虫と成虫それぞれで行い、生息地パッチ間の連結性には周囲のパッチの成虫個体数を組み込んだHanskiの指数を用いた。分散パラメータの最適値を探索的に求めた結果、連結性は200~500mの範囲で有効であり、モデル平均の結果、パッチの質としては、幼虫にとって共生相手であるクロヤマアリが、成虫にとって吸蜜資源となる周囲のソバ畑の面積が重要であることが示唆された。また、攪乱の頻度に対して、食草被度や共生アリ、食草の葉の質などのパッチの質が、それぞれ異なる時間応答(単調減少、単峰型、単調増加)を示すことがわかった。更には、攪乱のタイミングによって、パッチの様々な質を介して局所個体群動態が変動することが示唆された。以上の結果から、成虫の有効な移動分散の範囲での草刈り時期をずらした管理は、局所個体群動態の非同調性を促し、メタ個体群動態を安定させる可能性が高いと示唆された。


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