| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-352  (Poster presentation)

積雪深度が変えるニホンジカの冬季生息地選択
Effects of snow depth on winter habitat selection by sika deer Cervus nippon

*黒江美紗子(長野県環境保全研究所), 大橋春香(森林総合研究所), 田中竜太(無所属), 松井哲哉(森林総合研究所)
*Misako KUROE(Nagano Env. Con. Res. Inst.), Haruka Ohashi(FFPRI), Ryuta Tanaka(Independent), Tetsuya Matsui(FFPRI)

中高緯度地域に生息する多くの有蹄類にとって,冬季の生息地選択は生存を左右する重要な意思決定である.冬季の有蹄類は,狩猟対象となるだけでなく,低い気温や積雪により,餌資源が制限され移動コストが高くなるなど,個体の生存率や栄養状態が著しく低下する.特に積雪量は,餌資源量や移動コストを左右するため,有蹄類の冬季生息地選択に大きな影響を及ぼすと考えられてきた.
一方,これまで多雪によりシカが分布できないと考えられてきた地域で,ニホンジカが観察されるようになってきた.日本では長年,多雪地でのシカ分布情報がなかったことから,積雪地におけるニホンジカの環境選択は情報が乏しい.そこで本研究は積雪地で越冬するニホンジカを対象に,1)冬季の利用環境を明らかにし,さらに2)積雪深度に伴い選好性の高い環境が変化することを確かめた.積雪期に多くの地点でニホンジカの環境利用を調べるのは難しいため,本研究では赤外線センサーカメラを用いた.長野県北部の小川村と大町市に2キロ四方の調査区を設け,地形や植生などの条件が異なるよう計50台のカメラを設置した.これらのカメラは積雪期にあたる12月から3月まで設置し,ニホンジカ出没数および積雪深度を記録した.
 一般化線形モデルを用いて,ニホンジカの出没数が多くなる環境条件を推定したところ,調査地点の周囲に南斜面が多いこと,常緑であるスギ林が生育していることが,正に影響していた.またこれら環境条件と積雪深度との交互作用が有意であったことから,積雪が深いほど南斜面や常緑林への選択性は強くなることが推定された.このことから冬季のニホンジカは,積雪深度の変化に伴い選択する環境を変えていると考えられた.日本海側の多雪地には,まだニホンジカが進出していない地域がある.これらの地域でも,南斜面や常緑であるスギ林を足掛かりに,ニホンジカは定着を進めていくことが予想される.


日本生態学会