| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-11  (Oral presentation)

琉球列島のアザミサンゴ属の遺伝子型と表現型の関連性
The relationship between genotypes and phenotypes of Galaxea corals in the Ryukyu Archipelago

*中島祐一, Patricia H WEPFER, 御手洗哲司(沖縄科学技術大学院大)
*Yuichi NAKAJIMA, Patricia H WEPFER, Satoshi MITARAI(OIST)

アザミサンゴはインド洋から西太平洋の熱帯の沿岸域を中心に生息する雌雄異体の放卵放精型サンゴであるが、破片分散によりクローン群体を増やすことも可能である。琉球列島のアザミサンゴはミトコンドリアDNAに着目することで少なくとも3タイプに分かれるが、個体群維持機構や表現型には不明な点が多い。本研究ではタイプ間・タイプ内遺伝子型、群体の色彩多型、生殖細胞の有無と雌雄に着目して、アザミサンゴがどのように局所個体群を維持しているかを解明することを目的とした。琉球列島の4地点(奄美・沖縄・宮古・西表)で、GPSによる位置情報の記録とデジタルカメラでの撮影を行いながら、アザミサンゴの枝片を計289群体から採取した。沖縄では生殖細胞の観察用にも枝片を採取した。枝片からDNAを抽出した後、ミトコンドリアDNAのnad2–cytb間領域および15遺伝子座のマイクロサテライト領域のフラグメント解析を行った。組織観察用枝片は脱灰して切片を作成して、ヘマトキシリン・エオジン染色後、顕微鏡下で生殖細胞の有無と雌雄を判別した。奄美で採取した群体は全ての遺伝子型が互いに異なっており、礁池である他の3地点と異なり採取場所が礁斜面のため、クローン群体が低密度になる要因が存在すると考えられる。クローン群体が検出された3地点では距離が近いと近縁度が高い傾向にあり、遺伝子型分布に局所的な偏りが形成されていた。遺伝子型が同一であり無性生殖由来と思われるクローン群体はすべて同一の色彩型を示した。生殖細胞の観察のために採取した群体の多くは成熟していたが、性比に偏りが見られた。クローン群体はすべて同一の性を示していたことから、アザミサンゴでは生まれつき性が決まっていると考えられる。成熟群体が多い個体群でも有性生殖由来の群体が見かけより少なく性比に偏りが見られる場合、産出される幼生数が極端に少なく周辺個体群への幼生供給には寄与しない可能性が示唆された。


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