| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S19-6  (Presentation in Symposium)

階層モデルが駆動する研究と事業の相互作用系:奄美大島マングース防除事業を例に
Mongoose eradication in Amami island: an interacting system of ecological study and conservation practice driven by hierarchical models

*深澤圭太(国立環境研究所), 川本朋慶(自然環境研究センター), 諸澤崇裕(自然環境研究センター), 松田維(自然環境研究センター), 橋本琢磨(自然環境研究センター), 阿部愼太郎(環境省)
*Keita FUKASAWA(NIES), Tomonori KAWAMOTO(JWRC), Takahiro MOROSAWA(JWRC), Tamotsu MATSUDA(JWRC), Takuma HASHIMOTO(JWRC), Shintaro ABE(Ministry of the Environment)

鳥獣管理や外来生物対策などの生態系管理事業と統計モデリング研究の間には密接かつ互恵的な関係がある。事業の効果を明らかにすることは社会に対する事業の意義の説明や管理戦略の改善のために欠かせないが、そのためには目的や得られるデータに応じた統計モデルの開発が必要となることが多い。また、事業による大規模な介入とモニタリングデータ、そしてその分析に関する多様なニーズは新たな研究アイディアの供給源であり続けてきた。
本講演では、事業と研究の接点において階層モデリングが果たしうる役割を、奄美大島におけるフイリマングース防除事業を例に論じる。奄美大島においては、2000年より環境省によるマングースの防除が実施されており、捕獲努力量や捕獲数の情報は位置情報付きで記録されている。マングースの個体密度低減の効果を評価するために、この防除記録と導入個体数の情報を統合した階層モデルを構築した。その結果、努力量に対する捕獲率の変化や自然増加率、残存個体数が推定され、それをもとに算出した将来の根絶年数予測は事業期間の見直しなどに活用された。また、在来生物の回復の評価も階層モデルを応用することで、回復状況のみならずその背後にあるマングース捕食圧の低減効果も含めて明らかにすることができた。現在、奄美大島では約2年間マングースの捕獲や確認がない状態が続いており、今後の根絶確率評価に向けて空間明示型の個体数推定モデルの開発に取り組んでいる。
階層モデリングは、ランダムに割りつけられた介入群/対象群というシンプルなデザインを構築することが難しい生態系管理の事業の評価にとても有効である。また、生成モデルをモジュール化して記述できることは、データの背後にある人為的介入と対象生物の関係や推定結果の根拠に関する情報共有や意見交換を促進し、現場での奮闘に裏付けられたよりよい統計モデル発見することにもつながる可能性がある。


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