| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S24-1  (Presentation in Symposium)

アサガオの花に棲むカザリショウジョウバエのテリトリー認識機構
Territory recognition mechanism of flower-living fruit fly

*石川由希, 林優人, 藤井航平, 田中良弥, 上川内あづさ(名古屋大学)
*Yuki ISHIKAWA, Yuto HAYASHI, Kohei FUJII, Ryoya TANAKA, Azusa KAMIKOUCHI(Nagoya Univ.)

花を利用する昆虫は、視覚や嗅覚などさまざまな感覚を用いて花を認識する。しかしその神経機構の全貌は未だ明らかになっていない。カザリショウジョウバエ(Drosophila elegans)は、果物やキノコを利用する多くのショウジョウバエとは異なり、花を宿主として用いる。オスは、特にアサガオ類の花にテリトリーを作り、産卵のため訪花するメスに求愛する。しかし本種がどのように特定の花を認識し、テリトリーを作るのかはわかっていない。この神経機構を理解するためには、まず野外で本種がどのように行動しているのかを定量的に理解する必要がある。
そこで私たちは、本種の沖縄個体群が生息するノアサガオ群生地にビデオカメラを設置し、オスの行動を記録した。さらに深層学習を用いた画像認識を用いて、オスの移動軌跡と行動を高解像度で定量解析した。その結果、本種のオスは、特に花の中心の筒状部分(花筒)に選択的に位置していることがわかった。またオスは花筒内で頻繁に他オスに攻撃した。侵入オスを追い出したオスは花筒に戻って再び定位した。これらのことから、オスは花筒内をテリトリーとして認識していると示唆される。さらにオスは、花筒内に侵入したメスに対して高頻度で求愛し、一部は交尾に成功した。このことから、オスのテリトリー行動は繁殖成功を高める上で重要であると考えられる。
本種のオスが花筒において選択的に定位/攻撃したことから、本種はノアサガオの花筒とそれ以外を異なる環境と認識していると考えられる。ショウジョウバエから花がどのように見えるかを推測するために、キイロショウジョウバエの色覚を模倣したカメラを開発し、ノアサガオの花を観察した。すると、花筒とそれ以外はショウジョウバエの色覚によっても識別可能であることが示唆された。このことから、カザリショウジョウバエは色覚によってテリトリーを認識している可能性が示唆される。


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