| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W14-2  (Workshop)

生物多様性-感染症リスク関係:ベクター媒介性感染症リスクへのベクター多様性の効果
Biodiversity-disease relationship: effects of vector diversity on vector-borne disease risk

*瀧本岳, 白川遥大(東京大学)
*Gaku TAKIMOTO, Harumasa SHIRAKAWA(University of Tokyo)

感染症リスクの制御は人々の福祉や野生生物の管理にとって重要である。生物多様性は感染症の原因になるだけでなく制御メカニズムにも関与するため、生物多様性と感染症リスクの関係解明が積極的に展開されている。特に、生物多様性は感染症リスクを下げるのか(希釈効果)、それとも高めてしまうのか(増幅効果)という点が問題となっている。最新のメタ解析では、病原体の宿主となる生物の多様性の増加に対して、感染症リスクは非線形に応答することが示されている。このように感染症リスクへの宿主多様性の影響を調べた研究は多いが、ベクター(媒介者)の多様性の影響を調べた研究は限られている。本発表では、ベクター媒介性感染症をターゲットとして感染症リスクとベクター多様性の関係を調べた理論研究を紹介する。一般的なベクター媒介性感染症をイメージした数理モデルの解析から、ベクター多様性が増幅効果をもたらしやすいことを示唆する結果を得た。理論的には増幅効果だけでなく希釈効果も期待されるものの、宿主との接触を巡るベクター種間の干渉が強くなければ増幅効果が卓越する傾向が見られた。また、ベクター種間の機能的多様性が高いほど増幅効果が起きやすいことも示された。これらの結果は、ヒトのマラリアやオジロジカのウイルス性出血疾患で見られるベクター多様性の効果と整合的である。この数理モデルの結果をふまえ、ベクター多様性の感染症リスクへの影響を「感染媒介経路数」と「感染媒介効率」の2要因に分けて理解する理論的枠組みの有用性を考察する。


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