日本生態学会 近畿地区会
Kinki Branch of Ecological Society of Japan
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2009年度 フィールドシンポジウム:「芦生におけるシカ害とその対策研究の現状」--- 報告

 2009年10月3日(日曜日),京都大学フィールド科学教育研究センター森林ステーション芦生研究林(京都府南丹市美山町)において,表記のシンポジウムを開催しました.参加者は,講師4名,公募28名,事務局1名の計33名でした.10時半から12時半まで,研究林事務所講堂において,高柳敦氏(「芦生の自然をシカの影響からどう保全するか」),藤木大介氏(「大規模シカ柵を用いた集水域スケールでの植生回復試験」),福島慶太郎氏(「シカによる下層植生の食害が森林生態系の物質循環に与える影響」)に,それぞれの演題で講演していただきました.昼食後,バスで長治谷に移動,野田畑,ウツロ谷を含め3カ所の鹿よけネット設置区で,梶田学氏(鳥類生態学)を加えた講師陣による説明を聴きながら,3時半まで見学を行いました.
 変わり果てた芦生の姿に,昔の芦生を知る参加者からは嘆きの声が聞かれました.シカよけの柵の植生回復効果は一目瞭然でしたが,以前のような種構成に戻るかどうかははっきりせず,問題の深刻さがうかがえました.植物ばかりではなく,豊富だった昆虫や魚までもが,激減あるいは絶滅した可能性があり,生物多様性の消失ははかりしれないものと思われます.
 このようにシリアスな内容のフィールドシンポジウムではありましたが,前日の雨もあがり,参加者一同和気あいあいと初秋の一日を過ごすことができました.講演と現地見学全体を計画し,実施してくださった高柳敦さんに深く感謝いたします(事務局・曽田貞滋).


研究林事務所講堂にて

長治谷の実験区にて.梶田学氏

ウツロ谷のシカよけ柵内にて

野田畑の実験区にて.高柳敦氏

 

参加者からの感想メール
 昨日はとても参考になりました。ありがとうございました。私は春日山、奈良公園を対象にシカの研究を行っています。といっても卒論と今修士に取り掛かっているだけなので、まだまだ素人でよくわかっていませんが。高密度化での植生に対する影響は大きく、このままでは森は崩壊してしまいます。春日山でも同様な実験は行われていますが、実生の数が柵内外では大きく違い、シカのインパクトを目の当たりにしています。また、あのグラデーションを出していた実験には、興味を抱きました。あそこまで、月に数日間あけるだけで変わるものかと驚きました。今後、シカの数をどのように制限、管理していくかさまざまな視点から見ていく必要があると今回肌を持って実感することができ本当に意味のあるシンポジウムでした。将来は、柵なしでもあの環境が見れるような環境になることを期待しています。また、このようなシンポジウムがあれば参加してみたいと思います。よろしくお願いします。今回はありがとうございました。乱文失礼しました。(奈良教育大・山中康彰)
 高柳さん、講師の方々、芦生研究林に詳しい参加者の皆様、元気な参加者の皆様。多忙にも関わらず、貴重な機会を提供していただき、ありがとうございました。研究発表と現地視察を組み合わせた企画はとても分りやすく、様々な研究テー マを想像させて、刺激的でした。是非、研究林として、そして貴重な生態系として、保全と活用を期待しています。冬の観察会があれば参加したいと思います。(地球研・川端善一郎)
 先日は、芦生フィールドシンポジウムにて大変お世話になりました。私は、初めて芦生に行きました。とても素敵なところでした。また、芦生の鹿についてのお話を聞くことができたり、実際に鹿柵を見学できたりと貴重な経験となりました。ありがとうございました。(奈良教育大・二宮唯)
 先日の芦生フィールドシンポジウムの時は、曽田様をはじめ、講師の方々には、大変、お世話になりました。そして、興味深い貴重な講演をしていただき、深く感謝致します。小生は、研究者でなく、コンサルタントとして、これまで、大台ヶ原や大峰山脈弥山周辺での、植生へのシカの食害に関係する業務に携わってきました。いずれも太平洋側気候のもとで、芦生と比較すると積雪が多くない地域ですが、大台ヶ原では、東大台を中心に、シカの餌ともなり、シカの食害にも再生能力のあるミヤコザサが大面積で生育し、シカの食害の歴史は、芦生研究林より古いのですが、ミヤコザザが存在するためか、今なお、シカの姿を多く見かけます(最近の有害鳥獣駆除で少し減少したようですが)。西大台の林床のスズタケは、ほとんどが食い尽くされてはおりますが。それと比較して、多雪地帯の芦生研究林では、チシマザサやチマキザザは、シカの食害に弱いササのみしか生育しない地域では、既に食い尽くして餌不足のためか、この時期はよくシカの鳴き声を耳にするのですが、鳴き声を聞くことがなかったことから、現在は、かなり生息密度が低下しているという講演のお話しを裏付けているのでは、と思いました。芦生で、かつてはその存在をほとんど気づかなかったコバノイシカグマやイワヒメワラビのいずれかが群生したり、目につくのは、大台ヶ原や大峰山脈も同様だと思いました。しかし、今回は、10数年前に芦生を訪れた時の記憶にある景観と一変していて、驚きと、悲しくなりました。芦生の場合、防鹿ネットで囲まれているのは、自然林全体からすれば、ほんの僅かの範囲であり、昔、谷間の林床に大型のタイミンガサやヤグルマソウ、シダ植物のオシダが群生していたのが、全く見られず、本流沿いのサワグルミ、トチノキが優占する渓谷林をはじめ、多くの場所に防鹿ネットを一刻も早く設置し、種の供給源を確保しておく必要性を痛感しました。しかし、多雪条件が大台ヶ原などと比較してネットの設置を困難にしていることや、雪対策としてネットの着脱を要することが、人手の問題などとも絡み、よりネットの設置を困難にしていると思いました。十数年前までは、シカの嗜好性の高い植物が群生していたり、また、ササ類もがかつての規模ほどの大面積で密生していたことから、このようにシカの密度が高くなって、現在のように林床の植物が食べ尽くされてしまうような事態は、この数千年間は、一度もなかったことではないかと思いました。さらに、スギ、ヒノキの同一樹齢の一斉林が出現する前に、まずは、短期間で同面積の森林が伐採され、それを経て、現在のように人工林が大面積で存在する事態も、これまで一度もなかったことではないかと言えます。何千年もの間、人が利用することで存続してきた薪炭林も、この40年の間、放置されています。自然林すら、各地でシカの食害のため、大きく変化してしまいました。滅多に開花結実しない消滅したササ類は、絶えた場所に、どこかに残っている株から、栄養繁殖により、果たして回復するのか、大変興味のあるところです。シカの爆発的な増加は、そういった、森林の質や構造の大きな変化のことを思わずにはおれません。そういったことは、戦後、森林や半自然草原で存続してきた場所は、これまで日本人が 経験したことがない生態系へと変化していると言うことができ、今後、収穫のあての無い人工林は大面積で存在していると思われ、かつての薪炭林は、なおも放置されつづけ、今後、さらにどのような生態系へと変化していくのか、長期間のモニタリングが重要であると痛感しております。
(緑空間計画・麻生泉)
 フィールドシンポジウムに参加させていただきまして有難うございました。すばらしい企画だったと存じます。私は前任地の大学で、毎年、大学所属の練習船に学生を乗船させ、九州周辺、薩南諸島のさまざまな海域で潜水し、浅海生態系に出会う実習を十数年続けてまいりました。定年退官後、近畿地区に新設された私立大学でここ7年間、環境生命系専門科目の生態学と環境保全学の講義を一人で担当してまいりました。専門とする海洋生態系については多少とも実態にもとづいた話もできたのですが、森林生態系は全く知らないまま、知識の受け売りで済ませてまいりましたので心苦しく思っておりました。今回、芦生の森をトレッキングしたことは私にとって大変貴重な体験でした。今回のように現地の生態系に触れながら専門研究者にお話いただくシンポジウムは、学会の地区活動としては生態学会ならではの有意義な催しと存じます。主催されました曽田先生、研究林をご案内をくださいました高柳先生、他講師の先生方には大変お世話になりました。厚く御礼申し上げます。(長浜バイオ大・池上晋)
 今回の企画について労をおとりいただき,ありがとうございました。高柳さんのサイトと芦生の現状を拝見できて,とても充実した一日でした。高柳さんがおっしゃっていたように,集水域ごと,防鹿柵をはりめぐらす実験サイトは世界にも類をみないものだと思います。しかし,関わる研究者がまだ少ないので,もっと,広く研究者を募ることも必要だと感じました。渓畔林の研究者にとっても興味深いと思います。木本実生の動態や植生把握などで私もかかわりたいのですが,エネルギーが不足しています。院生など,またお世話になりたいと思います。地区委員として何もお手伝いできませんでしたが,参加させていただきありがとうございました。(大阪産業大・前迫ゆり)

 


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