公募シンポジウム 3/28 (S1-S5)
S1 量的形質の軍拡競走:理論と実証
3/28(月) A会場 14:00 -- 17:00
企画責任者:佐々木顕(九大・院・理)
軍拡競走の概念はメイナードスミスやパーカーによるボディサイズ進化のモデルを出発点とし、共進化の理論に重要な影響を与えたが、実証的な研究は遅れてきた。
KraaijeveldやGodfrayらはショウジョウバエの寄生蜂への抵抗性に遺伝的変異と地理的変異があることを見いだし、飼育実験によって寄生蜂存在下で抵抗性は数世代のうちに急上昇する事を示し、さらに抵抗性のコストの検出にも成功した。これを受けて、Sasaki & Godfray (1999)は寄主抵抗性と寄生蜂病原性(抵抗性を打ち破る対抗形質)の共進化を数理モデル化し、抵抗性と病原性が増大と急落を繰り返す共進化サイクルが広いパラメータ範囲で見られること、また寄主抵抗性のコストがある閾値より大きいと、寄主が抵抗性を完全に捨てた状態が共進化的安定状態になることなどを示した。しかし寄生蜂の病原性の遺伝的変異の検出が難しいため、共進化実験や自然集団での検証は行われていない。
しかしこのような閉塞状況は今大きく変わろうとしている。東樹と曽田はツバキ果皮とツバキシギゾウムシ口吻の軍拡競走の進行過程と起源に関しての野外研究によって、両形質に高い種内多型があり、ゾウムシの口吻長とツバキの果皮厚とが比例する直線上に乗る集団群(共進化によるエスカレーション途上の集団群?)と、果皮厚が明らかに口吻長より小さいゾウムシ優位の集団群(ツバキが抵抗をあきらめた平衡状態?)とに分けられる等の注目すべき結果を得た。本シンポジウムでは、これらの発見を詳しく紹介し(東樹と曽田)、それを寄主の抵抗形質と寄生者の対抗形質の軍拡共進化理論から検討し、量的形質の共進化の理論と実証研究の統合を試みる(佐々木)。また密接に関連する話題として、アズキゾウムシの穿孔深度多型と寄生蜂産卵回避に注目した共進化理論を紹介する(津田)。
- 東樹宏和・曽田貞滋(京大・院・理)
「ツバキ果皮とツバキシギゾウムシ口吻:軍拡競争の時空間動態」
- 佐々木顕(九大・院・理)
「量的形質の軍拡共進化の理論:共進化サイクル・安定平衡・地理的非同調」
- 津田みどり(九大・院・農)
「アズキゾウムシと寄生蜂:穿孔深度の多型と寄生蜂産卵回避」
- コメンテーター:嶋田正和(東大・広域システム)
S2 有性生殖と種形成の生態学
3/28(月) B会場 14:00 -- 17:00
企画責任者:矢原徹一(九大院)
なぜ多くの生物は有性生殖をするのだろうか。種形成による生物の多様化は、どのようにして起きるのだろうか。これら2つのテーマに関する最新の研究成果を紹介し、両者の関連を考えたい。まず、矢原が、メキシコ産ステビア属における有性生殖・無性生殖型の分布と、有性生殖系統の放散的な分化の関連など、矢原チームの最新の成 果をレビューし、問題提起を行なう。続いて、芝池が、ニホンタンポポ(有性生殖)
とセイヨウタンポポ(無性生殖)の交雑によって新しい系統が生まれ、日本中に広がっている現象(今まさに起きている種形成)について、報告する。次に、村上が、オオタニワタリ類における同胞種の種形成パターンについて報告する。最後に、伊藤が、種形成に関する最新の理論的研究の成果を報告する。総合討論では、有性生殖や種形成の問題が、種の分布・共存など、生態学の中心課題と深く関わっていることを浮き彫りにして、新しい研究の方向性を探りたい。
- (1)矢原徹一(九州大学大学院理学研究院)
「有性生殖と種形成の生態学:これまでとこれから」
- (2)芝池博幸(農業環境技術研究所)
「タンポポの種形成と生態的分化」
- (3)村上哲明(京都大学大学院理学研究科)
「シマオオタニワタリ類(シダ植物)における生殖的隔離の進化と生育環境の分化」
- (4)伊藤 洋(東京大学大学院総合文化研究科)
「再帰的適応放散としての進化史とその理論」
- コメンテーター:舘田英典(九州大学大学院理学研究院)
S3 大規模開発につける薬(2)--いま生態学者にできること
3/28(月) C会場 14:00 -- 17:00
企画責任者:安渓遊地(山口県立大)
あなたが研究対象としている場所や生き物が,開発行為によって消滅しようとしていることがわかったら,あなたはどうしますか。研究に使っている時間とエネルギーの一部を,保護活動のためにさきますか?それとも,別の場所や生物を探しますか。どうしても開発が止められないとわかったら,調査地の個体をみんな捕まえてホルマリン漬けにしますか。また,開発を前提とする審議会の委員になることを要請されたら,就任して言うべきことを言いますか,それともやめておきますか。釧路での第51回大会での公募式シンポジウム「大規模開発につける薬——生態学会の要望書の効き目を検証する」に引き続き,研究活動と自然保護の課題のはざまで起こっている様々な問題を,多面的に考えてみましょう。自然環境に大きな影響を与えることが危惧される開発計画に対する最近の生態学会の要望書にアフターケア委員としてかかわってきている会員の経験を中心に討論します。日本生態学会は何をめざし,何をめざさないか。研究至上の(あるいは逆に社会的有用性最優先の)生態学に未来はあるでしょうか。会員自身が,巨大な開発計画の前で,自らの口をふさぎ,手を縛ってしまうような傾向が最近増えてきたのではないか,振り返ってみましょう。いまこそ生態学の研究という営みのもつ社会性や研究倫理の問題について,もっとつっこんだ討論が必要です。前回大会の企画シンポジウム「日本生態学会のめざすところ——純粋科学,基礎科学,応用科学のはざまで」での議論をも踏まえた白熱した討論が期待されます。
司会:安渓遊地(山口県立大) |
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パネリスト | テーマ |
加藤真(京大) | 上関原子力発電所予定地の海から |
野間直彦(滋賀県大)・安渓貴子(山口大非常勤) | 里山研究と原発計画 |
金井塚務(広島フィールド博物館) | ツキノワグマは生き残れるか ——西中国山地・細見谷渓畔林からの報告 |
河野昭一(生物多様性防衛ネットワーク) | 技術論を越えて—— 生態学会と自然保護との関わり方への提言 |
コメント |
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甲山隆司(北大) | 生態学と自然保護——自然保護専門委員会の歩み |
嘉田由紀子(京都精華大) | Think locally. Act globally.——生態学会への期待 |
S4 生態系科学における大規模野外操作実験
3/28(月) D会場 14:00 -- 17:00
企画責任者:田中健太(北大・苫小牧研究林)・中静透(総合地球研)・日本生態学会大規模長期専門委員会
大規模野外操作実験は、生態系の挙動のメカニズムを探る強力な手法である。1970年代以降、海外では多くの大規模野外操作実験が行われ、生態系科学に大きなインパクトを与えてきた。このシンポジウムでは、科学的手法としての大規模野外操作実験の有効性と限界について議論する。また、生態系は、多くの生物・非生物的要素の相互作用系であるという視点から、大規模野外操作実験を核とした分野間共同の可能性についても議論したい。生態学会以外の生態系関連学会でご活躍されている演者の方をお招きし、国内の様々な生態系(河川・森林・農業生態系・海洋)での大規模野外操作実験による成果や展望、国内で大規模実験を進める上での工夫や苦労話を紹介して頂く。最後に、生態系科学の前進に対して日本の生態学がどのように向き合っていくかについて考えたい。このシンポジウムは日本生態学会大規模長期専門委員会が企画する第二回目のシンポジウムである。
- オーバービュー:「大規模」の意味と意義
占部城太郎(東北大・生命)
- 直線化された川の再蛇行化 −分野間の共同について−
河口洋一(土木研・自然共生研究センター)・中村太士(北大・農)
- 国立環境研究所が推進する森林生態系の炭素循環に係わる観測研究
藤沼康実(国環研)
- 農業生態系における総合的生物多様性管理(IBM)に向けて
桐谷圭治(元農環研)
- 西部北太平洋における鉄散布実験 −プロジェクトの立ち上げと成果−
津田敦(東大・海洋研)
- コメント:大規模な生態系研究にどう向き合うか
田中健太(北大・苫小牧研究林)
- 総合討論
S5 青海・チベット草原生態系における炭素動態を探る:現状と展望
3/28(月) E会場 14:00 -- 17:00
企画責任者:唐艶鴻・廣田充(国立環境研究所)・加藤知道(地球フロンティア)
「世界の屋根」とも呼ばれる青海・チベット高原は、欧亜大陸を横貫し、アジア大陸全体の気候や生態環境に大きな影響を与えている。一方、青海・チベット高原に広く分布する草原生態系は同緯度の草原とくらべ生物多様性が高く、植物生産力や土壌炭素の蓄積量も高いことなどから、生態学的研究における「神秘の宝庫」ともいわれている。また、標高が高いため青海・チベット高原は環境変動に対して地球上もっとも敏感に反応を示す「指標」生態系として、地球環境研究の中でも注目を集めている。しかし、このような魅力的な研究対象に対して、これまでの生態学的知見は必ずしも多くはない。今回のシンポジウムでは、青海・チベット高原の水循環を含めた気候学的研究をはじめ、草原生態系を中心とした炭素動態や生物多様性に関する生態学的研究まで、幅広い研究成果を紹介する。これらの研究発表と討論を通じて、青海・チベット高原への関心を高めるとともに、今後の高原生態学研究や地球環境研究の展開の一助になることを期待している。
- 唐 艶鴻 (国立環境研究所)
趣旨説明
- 石川 裕彦(京都大学防災研究所)
チベット高原の気象
Meteorology of the Tibetan Plateau
- 羅 天祥 (中国科学院 青海・チベット高原研究所)
Spatial pattern of plant productivity and biomass on the Qinghai-Tibetan Plateau
青海・チベット高原における植物生産力とバイオマスの空間分布パターン
- 加藤 知道(地球環境フロンティア研究センター 生態系変動予測研究プログラム)
高原草原生態系におけるCO2収支 -現状と将来予測-
Exploring CO2 budget of alpine meadow ecosystem−current status and model predictions-
- 廣田 充 (国立環境研究所 生物圏環境研究領域)
青海-チベット高原湿地の温暖化ガス動態〜家畜による被食の効果について〜
Grazing contribution to greenhouse effects: Examination on greenhouse gas dynamics in a Qinghai-Tibetan Plateau wetland
- 関川 清広 (玉川大学)
草原生態系における土壌炭素放出フラックス −チャンバー法に基づく測定と評価−
Soil carbon efflux by chamber methods in grassland ecosystems
- 陳 俊・堀 良通・山村 靖夫・安田 泰輔・塩見 正衛(茨城大学 理学部)
青海高原草原の植物種多様性はどのように高いか
The high diversity of plant species in an alpine meadow on the Qinghai-Tibetan Plateau
- コメンテーター:及川 武久(筑波大学生物科学系)・塩見 正衛(茨城大学)