日本生態学会

Home > 学会について > 活動・要望書一覧

西表島浦内地区におけるリゾート施設建設の中断と環境影響評価の実施を求める要望書

 我が国最大級の亜熱帯生態系を有する沖縄県西表島の西北部を流れる浦内川は、南西諸島最長の河川であり、河口付近のマングローブの面積が100haを越えるなど、西表島の中でも特に生物多様性が高く非常に重要な場所である。

 現在、浦内川河口に位置する浦内地区トゥドゥマリの浜(通称月が浜)において、ユニマット不動産によって当初計画でのべ14ha、完成時600室以上とされる沖縄県最大規模のリゾートホテル建設が始まっている。この建設計画は、環境影響評価の実施要件として沖縄県条例が定める20haに達しないとして、事業者が工事区域内の若干の生物調査を行っただけで、建設および営業にかかわる環境影響評価をまったく実施しないままで、県から許可が出された。しかし、この許可は以下の3つの事実を軽視しており、この事業がこのまま実施されると将来の西表島の自然環境は多大な悪影響を受けるおそれがある。1)事業者が将来の開発を視野に入れているトゥドゥマリの浜全体を加えれば20haを越える事業計画であること。2)西表島では、大富地区など貴重な自然があるため20ha未満でも環境影響評価を実施した例があること。3)ピーク時には、西表島西部地域の現在の総人口をはるかに上回る観光客・従業員が滞在することになる建設計画にともなう膨大な取水と排水による海水・汽水域生物への影響や、宿泊客の行動による国立公園内を含む自然への影響、およびこれまで自然との共存を果たしてきた地域社会への影響についての客観的予測・評価が必要であること。

 河川の河口域は、海水と淡水が混合する汽水域によって特徴づけられ、特有な生物種のすみ場所としてだけでなく、海と河川との間を回遊する魚類・甲殻類・貝類が生活史のなかで必ず通過する場としても重要である。河口域の生物種が豊富な亜熱帯域のなかでも浦内川は、調査の進んだ魚類に限っても、環境省レッドデータブックの絶滅危惧ⅠA類としてウラウチフエダイなど4種、絶滅危惧ⅠB類8種、絶滅危惧Ⅱ類2種の生息が確認されるなど、我が国随一の絶滅危惧種数の多さを誇る河川である。これらの魚種にとって、河口の汽水域は海から渓流にかけての多種の生物のとくに発生初期の生育場所として不可欠であり、リゾート施設の建設と営業による環境の著しい劣化の影響が懸念されるだけでなく、成魚がリゾート施設に隣接する細流にすむタメトモハゼとタナゴモドキ(絶滅危惧ⅠB類)については、直接的な生息環境破壊も危惧される。リゾート施設の建設地「トゥドゥマリの浜」の周辺もまた重要生物の宝庫で、国指定の特別天然記念物カンムリワシ(絶滅危惧種ⅠA類)と天然記念物6種(キンバト、セマルハコガメ、カグラコウモリ、キシノウエトカゲ、オカヤドカリ、ムラサキオカヤドカリ;すべて環境省レッドデータブックに記載)のほか、沖縄県指定天然記念物のヨナグニサンや国内では浦内地区にのみ分布するタイワンキマダラなどの生息がすでに確認されている。さらに、この地域の砂浜は希少種アオウミガメの産卵可能地として、海岸林は絶滅危惧Ⅱ類ヤエヤマヒトツボクロの生育地として重要である。

 これらの事実に基づき以下の3点を要望する。

  1. 事業者は、ホテル建設工事を一時中断し、その全体計画と、営業内容を具体的に明らかにし、計画の実施の結果予測される希少生物・生態系・地域社会への影響を客観的・科学的に評価して公表すること。
  2. 竹富町および沖縄県は、西表島におけるリゾート開発に関連して準備する公営の給水設備、排水処理施設、廃棄物処理施設建設計画などの環境影響評価をそれぞれ単独でなく、リゾート施設そのものの影響評価と一体化した総合的なものとして実施すること。
  3. 関係省庁は、環境影響評価が実施されるまで、工事を中断するように事業者を指導し、環境影響評価の結果を踏まえて、事業者・住民・行政・学識経験者を交えた協議の場を設けること。

以上決議する。

2003 年 3 月 23 日
日本生態学会第 50 回大会総会

提出先: 環境大臣、文部科学大臣、国土交通大臣、沖縄県知事、竹富町長、ユニマット不動産社長

トップへ