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京都府亀岡市アユモドキ生息地での専用球技場建設計画の再考を求める要望書

 2012年12月、京都府が亀岡市保津町の桂川(保津川)沿いの水田地域に専用球技場の建設計画を公表して以降、本学会の近畿地区会に所属する自然保護専門委員会が2013年3月と12月に、本学会の自然保護専門委員会は2014年7月に、計画を一旦停止して綿密な環境影響評価を実施し、それに基づいてこの事業の科学的かつ合理的な見直しを求める要望書等を提出した。しかし、現在に至っても、この事業の実施主体である京都府と亀岡市は、この一連の要望に答える形での計画の見直しを全く行っていない。よって、日本生態学会は生態学の専門家を中心とする会員(2014年12月現在、3923人)の総意として、この事業計画を白紙に戻し、代替案も含めて綿密な環境影響評価を実施した上で、その是非を検討するよう、強く要望する。

 京都府中部を流れる桂川は、保津峡の狭窄地帯の上部にある亀岡盆地で大きな氾濫原を形成し、長い年月をかけて豊かな氾濫原湿地生態系を作り上げてきた。この湿地生態系の多くは現在水田として利用され、当該地で農業を営む方々のご理解とご努力のおかげもあって、日本列島ではすでに稀となった低湿地特有の植物、昆虫、魚類等の永続的な生育と生息が可能となっている。その中には、国の天然記念物に指定され、環境省レッドリストで絶滅危惧IA類に位置づけられている淡水魚アユモドキをはじめ、国または京都府のレッドデータブックに掲載された種が多数含まれている。この点で、亀岡市保津町とその周辺地域の氾濫原湿地生態系は、京都府が全国に誇るべき自然だといえる。
 かつて、近畿地方から中国地方にかけて広く生息していたとされるアユモドキは、氾濫原湿地生態系の激減によって,現在、岡山県の2カ所と亀岡盆地の当該地域周辺のみに生残しており、近畿地方では当該地域の水田地帯が最後の繁殖・生息地となっている。そのため、本種は、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」による保全対象種「国内希少野生動植物種」に指定されており、絶滅危惧種の中でも特別に高い優先度で保全すべき種とされている。京都府も、「京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例」に基づいてアユモドキを「指定希少野生生物」に指定し、2008年には「アユモドキ保全回復事業計画」も策定されている。当該地域は「京都の自然200選」にも選出されており、そこで繰り広げられてきた亀岡市と当該地域で農業に従事されている方々による各種の保全活動は、行政と住民の方々との協働活動の模範として、高く評価されるものであった。

 ところが、2012年12月に京都府が公表し、2014年5月に亀岡市が「京都・亀岡保津川公園」として都市計画決定を行った、専用球技場を含む13.9 haもの都市計画公園は、まさにこの近畿地方唯一のアユモドキの繁殖・初期成育場所に建設されるものであり、この計画が実施されれば、アユモドキとその他の希少湿地性生物の存続にとって不可欠な河川・農業用水路・水田からなる水系ネットワークの大部分が著しく損なわれると予想される。
 京都府と亀岡市は、都市計画公園内に3.6 haの「共生ゾーン」を設置し、府と市が設置した環境保全専門家会議や事業評価第三者委員会からの助言や意見を得つつ、アユモドキ等野生生物との共生を図るとしている。しかし、当地のアユモドキを含む貴重な生態系は、当該地域での営農活動と、水田水域のプランクトン等微生物の高い生産性、水系ネットワーク、豊富で清純な地下水・湧水の存在など、さまざまな環境条件が組み合わさって形づくられ、残されてきたものと推察される。全国での研究・保全事例や当該地の現状を考えれば、そのような生息環境や生態系を、詳細な環境影響評価なしに、大幅に面積を縮小して計画・整備される代償区域によって永続的に保全することができるとは、とうてい考えることができない。 しかるに、亀岡市は「京都・亀岡保津川公園」の都市計画決定後間もない2014年8月から既に用地取得に着手しており、京都府は2014年度中には計画の基本設計、2015年度中に実施設計を終えて、2016年度中に工事着手、2017年度中の完成を目指している。このスケジュールは、当初案よりも遅くなっているが、事業を一旦停止して詳細な環境影響評価を実施し、その結果を踏まえて計画を見直そうという姿勢は全く見られない。

 京都府では、既に1960年代にミナミトミヨが絶滅しており、旧八木町では1980年代後半に一定の配慮を行いながらも圃場整備事業によってアユモドキを絶滅させた前例がある。詳細な影響評価や有効な保全対策が検討されていない中で進められている本計画も、アユモドキ等希少生物を絶滅に追い込む可能性が高く、日本の生物多様性国家戦略や生物多様性基本法にも抵触するものである。このような状況を踏まえて、日本生態学会は、以下の2点を要望する。

  1. 当該開発計画を白紙に戻し、専用球技場の建設位置等の代替案を含めて、綿密な環境影響評価を行い、公表すること。
  2. 上記の評価の結果を踏まえて、文化庁、環境省等関係する国の機関と京都府、亀岡市の行政、地域関係者、市民、専門家が十分に議論する場と期間を設け、当該地域のかけがえのない氾濫原湿地生態系や絶滅危惧種等と、人々の営農その他の営みとの持続可能な共生のあり方を、本計画の是非も含めて検討すること。

以上決議する。

2015年3月20日
一般社団法人日本生態学会総会

※資料(資料1.アユモドキの過去および現在の分布概要。資料2.京都府亀岡市のアユモドキの繁殖および初期生活環境。)

送付先:京都府知事、亀岡市長

<本要望に関する問い合わせ先>
加藤 真(日本生態学会 自然保護専門委員会委員長 京都大学大学院人間・環境学研究科 教授)
  〒606-8501 京都市左京区吉田二本松町 京都大学大学院人間・環境学研究科
  Tel: 075-753-6849; Fax: 075-753-2957
  E-mail: kato@zoo.zool.kyoto-u.ac.jp

岩崎敬二(日本生態学会近畿地区会自然保護専門委員会委員長 奈良大学教養部 教授)
  〒631-8502 奈良市山陵町1500 奈良大学教養部
  Tel: 0742-41-9591; Fax: 0742-41-0650
  E-mail:iwasaki@daibutsu.nara-u.ac.jp

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