日本生態学会

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第8回(2010年)日本生態学会賞受賞者

重定 南奈子(同志社大学文化情報学部・教授)
寺島 一郎(東京大学理学系研究科・教授)


選考理由

本賞のすべて他薦による立候補者5名のうち、委員会は本年度の受賞候補者として重定南奈子氏と寺島一郎氏の両名を推薦することとしました。選考の経緯は以下の通りです。

重定南奈子氏
 重定南奈子氏は、主に数理的手法を用いた生態系全般にわたる研究で傑出した業績をおさめています。これまで幅広い研究対象を手がけ、現時点で100編以上にわたる学術論文・記事、20数編余りの著書及び翻訳の執筆をしています。氏は物理科学における反応速度論の数理的な取り扱いを出発点とし、力学系平衡点の安定性解析に基づく生態系の構造に関する一連の研究を、古典的なR. Mayの研究と同時期に世界に先駆けて展開しました。重定氏のライフワークは生物集団の空間分布に関する研究でありますが、連続時間・連続空間を記述する反応拡散方程式の枠組みを用いて生物集団の空間分布の問題に取り組み、今日的な問題である生物集団の侵入と伝搬の数理科学という新分野を創出したパイオニアの1人です。特に、P. M. Kareiva と共著で著した論文は、昆虫個体の移動分散をランダムウォークならびに拡散過程として記述したもので、ISI調べで200を超える被引用回数を持つなど、生態学における移動分散に関する数理的研究の古典論文となっています。また、松枯れ病を引き起こすマツノザイセンチュウを媒介するカミキリの個体群動態のモデル解析で被害地域拡大の予測に貢献したほか、研究対象はバクテリアのコロニーパターン、サンゴや植物の形態形成、環境攪乱が種多様性に及ぼす効果、魚類の繁殖生態等多岐にわたり、教科書や一般書も多数著し啓蒙活動においてもリーダーシップをとっています。

寺島一郎氏
 寺島一郎氏は、門司・佐伯や篠崎のパイプモデルなど植物群落内での光利用に関する理論体系を植物体内というミクロスケールの光利用に適用した画期的研究により生態学の幅を広げたパイオニア的研究者であるとともに、植物生理学・形態学と生態学を結ぶ希有な存在です。個葉の光合成測定における葉の微細構造の重要性を明らかにし、ストレス環境下では計算によって求めた葉内CO2濃度(Ci)が過大推定となることがあると指摘したTerashima et al. (1988)は、これまでに310回以上引用されています。研究対象は幅広く、物の葉が何故緑色であるのかという問題について斬新な論文、曽根らとの共同でのパイプモデルと樹形のダヴィンチ則についての重要な論文、群集生態学関連では長嶋との共同研究による個体サイズの二山分布の成立要因、背揃現象の記載、植物生理学関連では、光阻害の発生機構やCO2拡散におけるアクアポリンの役割、光合成の温度順化などにおいて顕著な業績があります。これらは国際的な著名誌を中心に100本以上の論文として発表され、総引用回数は3600回を超えています。これらの一連の研究は、単に植物生態学における大きな貢献に止まらず、今日、盛んに行われている地球環境レベルの植生計測手法の学問的基礎となっており、日本と世界の植物生態学の発展に多大なる貢献をしました。また、啓蒙活動においても多数の日本語の教科書に携わっています。

5名の立候補者はいずれも日本生態学会における重鎮として確固とした地位を確立しているほか、近年社会的に重要な保全生物学でもオピニオンリーダーとしての活動をしています。しかし寺島氏と重定氏は研究業績面で国際的にも抜きん出ていると委員会は判断し、原則1名の受賞者の枠をこえ2名を推薦することとしました。なお、本委員会では、受賞者の高年齢化を防ぐため今後も原則1名の枠に治まりきらない場合は2名以上を推薦することを躊躇しない方針で行くことなどが議論されました。

選考委員会メンバー:河田雅圭,齊藤隆,杉本敦子,辻和希(委員長),津田みどり,永田俊,井鷺裕司,久米篤,宮下直

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