日本生態学会

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第12回(2014年)日本生態学会賞受賞者

占部 城太郎(東北大学大学院生命科学研究科・教授)
甲山 隆司(北海道大学大学院地球環境科学研究院・教授)


選考理由

 生態学会賞には4名の推薦があり、いずれもすぐれた業績を上げていたが、とくに優れていたと評価された占部城太郎氏、甲山隆司氏の2名を受賞候補者として選んだ。

占部城太郎氏
 占部城太郎氏の特筆すべき功績は、ストイキオメトリーを生態学に定着させた点にある。氏はミジンコとケンミジンコの摂食と排泄の研究を進めるうちに、餌に含まれる窒素・リンの割合が、これらメソ動物プランクトンの排泄物中の窒素・リンの割合に影響することに着目した。メソ動物プランクトンは、体の炭素・窒素・リンの割合をほぼ一定に保つ恒常性を有しているため、足りない元素については濃縮するが、余剰な元素は排泄する。動物プランクトンのこの過程は、水中の栄養塩類組成を変化させ、細菌や植物プランクトンの生態にも影響し、さらには細菌・植物プランクトンの摂食者である原生生物の生態にも波及する。占部城太郎氏は、こういった生態系における連続した反応の研究を進めた結果、メソ動物プランクトンの生態学に留まらず、プランクトン群集の成立機構や生態系全体の機能へと研究を発展させた。この過程で、光と栄養塩類の供給比が生産者の体の元素組成を決定し、生産者を消費する動物プランクトン群集の栄養転送効率を変化させる「光-栄養塩仮説」が生まれた。近年では、湖沼堆積物中の生物遺骸を用いた近過去復元研究(レトロスペクティブ型モニタリング)も新たに展開し、氏の地球環境問題に対する研究の幅を広げている。
 これらの研究の成果は、PNAS、Ecology Letters、Ecologyなどの雑誌に発表されてこれまでに2000回以上引用され、生態学の発展に世界的に貢献してきた。学会活動への貢献も非の打ち所がない。
 以上の理由により、占部城太郎氏は日本生態学会賞の受賞者として相応しいと判断する。

甲山隆司氏
 甲山隆司氏は、森林生態系における多種共存を説明するために「森林構造仮説」という新しい理論を創りだしたことが特筆すべき功績である。
 氏は、樹木自体が樹木群集に垂直構造をもたらし他種共存を促進するという独創的な仮説を、移流方程式を基本に連立微分方程式としてモデル化し、数理モデルと野外データを元に生活型の異なる3種の共存をエレガントに示した。最近は、そのモデルを「階層理論」として発展させ、より多くの種が共存しうることを理論的に示している。これらの一連の研究により、日本人による独創的かつ普遍性の高い理論が世界に向けて提示された。また、精緻なモデルによる研究は、樹木の分野を超えてさまざまな生物の研究者にも影響を与え、生態学の発展に大きく貢献してきた。
 また、氏は広域スケールでの森林の変化を比較解析するためのプラットフォームとしてPlotNetを立ち上げたほか、GLP、IGBP、DIVERSITASなど数多くの国際共同研究プロジェクトの中心メンバーとして国際的に大きく貢献してきた。このような氏の業績は世界的に認められており、Journal of EcologyやFunctional Ecologyなどの国際誌に発表した論文の引用回数も1500回を超えている。
 以上の理由により、甲山隆司氏は日本生態学会賞の受賞者として相応しいと判断する。

選考委員会メンバー:粕谷英一,酒井章子,綿貫豊,大手信人,佐竹暁子,正木隆(委員長),大園享司,中野伸一,野田隆史

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