日本生態学会

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第13回(2015年)日本生態学会賞受賞者

齊藤 隆(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター・教授)


選考理由

 生態学会賞には7名の推薦があり、いずれもすぐれた業績を上げていたが、とくに優れていたと評価された齊藤隆氏を受賞候補者として選んだ。

 齊藤隆氏は、エゾヤチネズミを対象に個体群動態の解明に特筆すべき功績をあげた。本種の密度調節機構について野外実験を通して明らかにした。加えて、個体群動態の周期性、変動特性及び密度依存性の地理変異とその背後にある要因を北海道の90箇所の個体群で収集された30年間にわたる長期データの解析を通して明らかにした。一連の研究成果はEcology, Journal of Animal Ecology, PNAS, Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciencesなどの著名な国際誌などに約30編の論文として発表され、その被引用数は1,100回を超える。これら一連の研究は内外の生態学者を多いに刺激・啓蒙してきた。なぜなら、その研究スタイルは1種類の野生生物を対象に、多角的アプローチで個体数の時空間変異性におけるパターンとその背後にあるプロセスとメカニズムの理解の深化を進めるというものであり、得られた研究成果は、進化生態学、個体群生態学、群集生態学、マクロ生態学といった広範な生態学分野を跨ぐもので、生態システムの統合的理解の深化に大きく貢献したからである。

 また、氏はさまざまな哺乳類を対象に個体群生態学や保全生物学についての数多くの論文を発表し、それらの総被引用回数は1,700回を超える。加えて個体群生態学と哺乳類学に関連する多くの著書を執筆あるいは編纂し、生態学研究の普及啓発に多大な貢献を果たした。さらにPopulation EcologyとMammal Studyの編集長として、国際誌としての両誌の地位確立に大きく寄与するなど、個体群生態学や哺乳類生態学の発展、及びこれらの分野における我が国の国際的地位の向上にも大きく貢献した。一方で、日本生態学会では、英文誌編集委員、全国委員、常任委員及び学会長などを歴任し,本学会の発展にも多いに貢献した。 以上のように齊藤氏は、研究業績、国際性及び指導性のいずれの点においても高く評価できることから、生態学会賞の受賞者として相応しいと判断する。

 なお、7名の被推薦者のうち、齊藤氏を含めた5名の方々の研究業績が特にすぐれており、甲乙付け難かった。しかしながら、我が国における生態学、特に個体群生態学と哺乳類生態学の分野の発展に対して齊藤氏が成した特筆すべき指導的啓蒙的貢献を評価し、総合的には5名のなかでわずかに抜きんでているものと結論した。以上の評価と受賞者を原則1名とする本賞の規定を鑑み、本委員会は齊藤隆氏1名を受賞候補者として推薦することにした。

選考委員会メンバー:大手信人,佐竹暁子,正木隆,大園享司,中野伸一,野田隆史(委員長),工藤洋,近藤倫生,松浦健二

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