日本生態学会

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第20回(2022年)日本生態学会賞受賞者

北島 薫(京都大学大学院農学研究科)

髙林 純示(京都大学生態学研究センター)


選考理由

2名の推薦がありました。応募者である北島薫氏は、熱帯雨林の樹木をテーマに、葉の機能形質の違いに着目した先駆的な研究を行っており、形質生態学の端緒を開いた研究者の一人です。中でも、熱帯林の実生の生存率が資源投資率や形態的特性に依存することを新たに示した研究は、熱帯林樹木の耐陰性の意義を理解するための重要な研究として極めて高く評価されています。また、数多くの国の研究者と多彩なネットワークを構築して共同研究を行っており、植物の形質に関するデータベース構築やメタ解析の論文は大きなインパクトを与えました。これらの業績は日本の生態学の発展に大きく貢献したという点で委員全員の意見の一致をみたことから、北島氏を生態学会賞の受賞候補者として選出することになりました。なお、当初提出された推薦書は不十分な内容であるとの判断がなされたため、推薦者に追加書類の提出を求め、再提出された推薦書をもとに北島氏を選出の最終決定をしました。
応募者である髙林純示氏は、化学コミュニケーション研究の世界的第一人者です。髙林氏は、揮発性化合物を介した植物と他生物との相互作用に焦点を当て、植物が「天敵の天敵」である寄生蜂等を食害誘導性植物揮発物質で引き寄せる戦略に関する基礎研究を、多様な植物で精力的に展開してきました。これらの業績は日本の生態学の発展に大きく貢献したと認められるため、髙林氏を生態学会賞の受賞候補者として選出することになりました。

北島薫 氏
北島氏は、森林生態系において葉の機能形質の違いに着目した先駆的な研究を推進し、形質生態学の端緒を開いた研究者の一人である。特に熱帯林の実生の生存率が資源投資率や形態的特性に依存することを示した一連の研究は、熱帯林樹木の耐陰性を理解する上で鍵となる重要論文として世界的に評価されている。近年は熱帯林のケイ素放出やカルスト林に関する研究など新たな研究展開に加え、温帯林に関する研究も展開している。数多くの研究者と多彩な国際ネットワークを構築して共同研究を行い、植物の形質に関するデータベース構築やメタ解析を実施することで、グローバルスケールの生態学を牽引してきた。日本国内外の学界において重要な役割を歴任しており、Association for Tropical Biology and Conservation(熱帯生物保全学会)の学会長、日本学術会議会員、IPCC国内連絡会委員など、重要な機関で会員や委員をつとめている。日本生態学会においては現在、国際協力担当理事・近畿地区の代議員であり、将来計画委員や学会賞選考委員なども歴任し、次世代育成にも尽力してきた。以上のように、北島氏は、数多くの研究論文の発表によって生態学の進展に重要な役割を果たし、日本国内外の学界や生態学会に対する貢献も大きいことから、日本生態学会賞に値すると評価された。

髙林純示 氏
髙林氏は化学コミュニケーション研究の世界的第一人者である。氏は、揮発性化合物を介した植物と他生物との相互作用に焦点を当て、植物が「天敵の天敵」である寄生蜂等を食害誘導性植物揮発物質(Herbivory-Induced plant Volatiles、以下HIPV)で引き寄せる戦略に関する基礎研究を、イネ科、アブラナ科、ナス科、マメ科、ヤナギ科などの植物で精力的に展開してきた。氏の日本語による普及活動で「植物が発するSOS信号」という概念は今では広く一般に知られるようになった。最も著名な研究成果は、昆虫に食害された植物リママメがHIPVを発したとき、それを受容した同種他個体植物にも食害時の反応が誘導されることを発見した2000年にNature誌に掲載されたものであり、本論文は生態学に大きなインパクトを与えすでに古典としての地位を確立している。さらに氏はHIPVに関する基礎知識を減農薬栽培へ適用する応用研究プロジェクトも主導し、確かな成果を残している。基礎生態学的知見を成功裏に応用展開できたことは特筆に値するであろう。また、京都大学生態学研究センター長、Asia-Pacific Association of Chemical Ecologists 会長、Journal of Chemical Ecology 編集委員等を歴任するなど国内外の生態学関連のアカデミアへの貢献も大きい。さらに指導学生から各種学会賞受賞者が輩出されるなど教育面でも活躍をしている。これらの実績から日本生態学会賞の受賞者に相応しいと判断された。

選考委員会メンバー:石川麻乃、大橋瑞江、小野田雄介、鏡味麻衣子、佐藤拓哉、佐竹暁子(委員長)、辻和希、半場祐子、森章

なお、選定理由紹介順は応募順である。

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