日本生態学会

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第7回(2003年)日本生態学会宮地賞受賞者

工藤慎一(鳴門教育大学学校教育学部・助教授)
三浦 徹(東京大学大学院総合文化研究科・助手)


選考経緯および選考理由

 2002年10月31日(木)に東京大学教養学部15号館会議室において、選考委員全員出席のもとに第7回(2003年度)「日本生態学会宮地賞」受賞候補者選考委員会が開催されました。応募者(被推薦者を含む)9氏のそれぞれの生態学における業績を考量した結果、選考委員会としては次の2氏を第7回(2003年度)「日本生態学会宮地賞」受賞候補として選定いたしましたので、選定理由とともにご報告いたします。

工藤慎一氏
 ツノカメムシ類、ツチカメムシ類、ハムシ類などの昆虫における親の投資、特に産子後の保護行動の研究において、それを生活史進化全体の観点からとらえて研究した。そして、雌親による子の保護の進化要因における「時間的に限られた餌資源」仮説、クラッチ内での不平等な親の投資についての「位置効果」仮説、同じ餌を利用する複数捕食者間での「襲い分け」仮説などといったいくつもの興味深い仮説の検証を行った。ヒラタヤスデ類は雄親が卵の保護を行うという興味深いものであるが、その行動の適応度損益と配偶者選択との関係についても研究している。これらの研究の際に、行動生態学のみならず、量的遺伝学、種間比較法さらには行動生理学的手法を組み合わせて大きな成果をあげている。現在はコーネル大学の研究グループとの共同で世界各地のツノカメムシ類のサンプルを用いた大規模な分子系統を構築中であるが、それが完成すると工藤氏の生活史研究がいっそうの重みを持つことになろう。なお、工藤氏は学会活動においても、自身がめざしてきたようなアプローチを積極的に広め活性化をはかることに大きく貢献している。

三浦 徹氏
 社会性昆虫のシロアリ類は熱帯雨林において大きく繁栄しているが、その中で大規模かつ整然とした採餌行進をするコウグンシロアリ類を対象にしてワーカー間の分業についてフィールド研究をした。そして、この複雑な集団行動は発育齢および性に応じて諸タスクが割りふって遂行されていることを詳細な観察により発見した。一方、このシロアリに近縁のテングシロアリ類において、兵隊カーストが小ワーカーカーストからの脱皮変態によって出現することを発見し、シロアリのカースト分化の研究に新たな視点を投入した。さらに、オオシロアリを対象にしてその兵隊カースト分化の際に幼若ホルモンが関与する遺伝子発現の研究を世界に先駆けて行い、その成果は個体相互関係の重要性を明確に指摘したもので、国際的に大きく注目された。最近では、複雑な生活史をもち集団生活を行い真社会性の種もみられるアブラムシ類、そしてシロアリと同様にすべてが真社会性のアリ類における社会統合メカニズムを分子生物学の手法で研究しいくつもの成果をあげつつあり、分子社会生態学の確立をめざしている。

コメント

 宮地賞の授賞は毎年2名以内と決められています(細則第1条)。今回は9名もの応募者あるいは被推薦者がありかつてない激戦でした。また、それらの方々の研究分野および年齢は広いもので、学会誌や大会での発表にも熱心に取り組まれていた方がほとんどでしたので、選考委員会としては2名にしぼるのがたいへんでした。このことは、生態学会における宮地賞授賞の意義がますます確たるものになったものと受け止めております。
 今回の選にもれた応募者についても、選考委員会としてはほとんどの方々が受賞に肉薄する業績を持っておられると判断しております。そこで、今回あるいは以前の選考において選にもれた候補者の方々には、さらに業績を重ねて宮地賞へ再応募されることを強く奨めたいと思います。  また、選考委員会は、現在の生態学会には宮地賞の授賞対象となる若手がさらに多数存在するという認識をもっています。そして、生物科学における生態学の地位をより確固としたものにしていくために若手受賞者をより多く輩出することが必須であると考えています。全国委員の皆様には、次回以降の募集に際しましても、若手に対して積極的な応募を促していただきたく、また候補者を推薦してくださいますようお願い申し上げます。

選考委員会: 粕谷英一、菊澤喜八郎、甲山隆司、椿宜高、松本忠夫(委員長)、鷲谷いづみ

 

第7回日本生態学会宮地賞受賞候補者選考委員会委員長  松本忠夫
2002年10月31日

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