日本生態学会

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第8回(2004年)日本生態学会宮地賞受賞者

近藤倫生(京都大学生態学研究センター)
松浦健二(Department of Organismic & Evolutionary Biology, Harvard University)


選考理由

 宮地賞選考委員会を、2003年10月6日東京で開催しました。甲山、椿、河田、斉藤、加藤、菊沢の6委員全員が出席し、次の2名を宮地賞受賞候補者に選考いたしました。2名の氏名および選考理由を以下に報告します。

近藤倫生氏

生物多様性と系の安定性、生産力と攪乱等との関係について、分かりやすいモデルを用いて解析し、長年の懸案を解決する独創的な仮説を提唱したこと。
生物多様性と安定性の関係に関しては、多くの野外研究者の直感や経験的事実は、複雑性が増すほど安定であることを支持してきたが、理論では食物網が複雑になるほど不安定になることが予測され、「多様性のパラドックス」とされてきた。近藤氏はこの問題に対して、生物が利用可能な資源の量に応じて、「適応的に資源の利用方法を切り替える」という行動をとるならば、食物網構造が複雑になるほど食物網の柔軟性が増大するために、環境変動をよりよく緩衝し、結果として食物網はより安定になることを理論的に突き止めた。これは従来のパラドックスを見事に解決したものと評価することができる。この研究成果はScience誌に報告され、最近の業績であるにもかかわらず国際会議への招待など既に高い評価を受けつつある。また生物多様性と攪乱、生産力との関係を解析した研究においては、従来からよく知られている中規模攪乱仮説をも包含したより包括的な理論的解析がなされていて、その後の実証研究にも大きな刺激を与えており、これまた高く評価できる。以上のような近藤氏の研究は、Science, American Naturalist, Journal of Theoretical Biologyなどの一流国際雑誌に既に11報掲載されており、30歳の若手としては目を見張るような活躍振りである。以上のような理由により、若手を奨励する宮地賞の候補として最適であると評価しここに推薦する次第である。

松浦健二氏

シロアリを対象にして、微生物を介した個体認識、菌核菌との関係などを簡単ではあるが説得力に富む巧妙な実験で証明するなど独創性の高い研究を展開しつつあること。
松浦氏はヤマトシロアリの卵塊中に、高い頻度で球状の物体が存在することを発見し、これがシロアリ卵に擬態して巣内に共生する新種の菌核菌であることを明らかにした。これは菌類の擬態とその適応的意義をしめした始めての研究である。またビーズ玉を用いた巧妙な実験によりシロアリの化学的、物理的な卵認識メカニズムを明らかにするとともに、それを利用したシロアリ防除手法なども考案している。従来明確な答えのなかったシロアリの巣仲間認識メカニズムについて、松浦氏はコロニー個体間の頻繁な栄養交換により、腸内共生バクテリアがコロニー個体間では酷似しコロニー間では異なることを示し、また糞を巣材として利用することからバクテリアの代謝産物が体表に付着することを示し、腸内バクテリア組成が同巣認識に影響することをはじめて明らかにした。このほか、単為生殖によるコロニー創設の発見、共同雌間の関係解明、単為生殖能力と性配分の関係など、松浦氏の研究は新しい発見とその理論的発展など独創性の高い研究が多い。以上のような研究はEcological Researchをはじめ、Oikos, Animal Behavior, Journal of Theoretical Biologyなど一流の国際誌に9報掲載されており、しかも全てが松浦氏を筆頭著者とするものであり、29歳の若手研究者としては申し分のない研究成果である。以上の理由から宮地賞の候補として最適であると評価しここに推薦する次第である。

選考委員会: 菊沢喜八郎(委員長)、甲山隆司、椿宜高、加藤真、河田雅圭、齊藤隆

第8回日本生態学会宮地賞受賞候補者選考委員会委員長  菊沢喜八郎
2003年10月6日

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