日本生態学会

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第14回(2010年) 日本生態学会宮地賞受賞者

受賞者:
   土居 秀幸(Carl-von-Ossietzky University Oldenburg)
   東樹 宏和(産業技術総合研究所ゲノムファクトリー研究部門)
   細川 貴弘(産業技術総合研究所ゲノムファクトリー研究部門)


選考理由

土居秀幸氏
 土居秀幸氏は生態系における食物網・物質循環に焦点を当てた研究を中心に様々なテーマで精力的に研究活動を展開しています。主著がOikos、Oecologia、Biology Letters、Global Change Biologyに掲載されたほか30代前半にして発表論文数は50を超えています。主な研究スタイルは安定同位体分析技術を用いた研究で、最も重要とされる業績は、食物連鎖長の決定要因として長年議論されている生産的空間仮説を支持する証拠を、既存例より遥かに小規模の生態系である、ため池において安定同位体分析で示したことです。また、河川における食物網の構造の変異性のパターンを上流から河口にかけ詳細かつ網羅的に明らかにした研究、河川生態系において化学合成細菌由来の有機物の底生食物網への寄与を世界で初めて示した研究なども主要業績にあげられます。また気候変動による植物・動物フェノロジーの変化やその遺伝的多様性と関係にも研究のスコープを延ばしています。生態学会大会におけるポスター賞受賞を経験しているほか、各種研究集会の企画運営などでリーダーシップを発揮し、日本語総説執筆など啓蒙活動にも積極的です。多岐にわたる研究活動全体を総括した上での将来に向けた新たな研究の展望に期待し、委員の満場一致で氏の推薦を決めました。

東樹宏和氏
 東樹宏和氏は、生物種間の軍拡競走的共進化の研究で顕著な業績を上げています。長い口吻を持つツバキシギゾウムシとその寄主植物であるヤブツバキの関係においてゾウムシの口吻が長いほどツバキの果皮を穿孔しやすく、種子に産卵を成功する確率が高くなる一方、果皮が厚いツバキほど種子の防衛に成功しやすいことなどを明らかにし、自然界での実証は困難とされてきた「軍拡競争」の実態を明らかにしました。実証過程において、東樹氏は、口吻長-果皮の厚さの相関関係、口吻長と果皮厚の生態学的機能、相互関係の地域変異、選択圧の地域変異など多角的に調査・分析し、信頼性の高い実証結果を提示した点は高く評価できます。また、同氏は「軍拡競争」はこれまで考えられていたよりも短時間で起きること、数キロメートルという小さな空間スケールでも起こりうることなどを示し、この分野の研究を国際的にリードする業績を上げ続けています。さらに、「共進化はなぜ始まるのか?」などの課題に理論的に取り組みつつ、実証研究を発展させるなどバランスの良い研究アプローチは今後のより一層の活躍を予感させます。氏の研究スタイルは量より質であり、論文数は応募者の中では6と最も少ないもののそれらはすべてがThe American Naturalist, Evolution, Biology Letters, Molecular Ecology, Journal of Evolutionary Biology など著名な国際的学術雑誌に発表されたもので、被引用回数は計56回に上っています。さらに主要な外国語教科書にも論文が引用されるなど、研究成果はすでに「古典」の域に達している感さえあります。東樹氏はまた、日本生態学会誌に総説を2本発表し、大会におけるシンポジウム・自由集会(企画集会)でも演者を7回務め、ポスター発表では 最優秀賞を2回受賞しているなど日本生態学会においても積極的に活動しています。これらの業績は宮地賞受賞に値するとの委員の満場一致の認識で氏を推薦することにしました。

細川貴弘氏
 細川貴弘氏はカメムシと体内共生微生物の相互作用系に関する進化生態学的研究に取り組んでいます。主要な成果としては、マルカメムシの腸内共生細菌において宿主と共種分化、ゲノム縮小、加速分子進化が生じている事実を動物の腸内共生細菌では初めて明らかにした研究、マルカメムシ類2種の間で共生細菌を入れ替える実験を行い細菌が宿主の寄主植物適応および害虫化に関与することを明らかにした研究、通常は昆虫寄生細菌であるWolbachiaが吸血性のトコジラミでは栄養を供給する相利共生細菌に転じていることを発見した研究などがあります。これらの成果は、PLoS Biology, Proceedings of the Royal Society of London B, Biology Letters, Molecular Ecologyなど著名国際誌に多数掲載され海外でも高い評価を得、総引用件数は96回にも達しています。生態学会大会でもポスター賞を複数回受賞しており、各種研究集会の企画をするなど学会の運営や啓蒙活動にも積極的です。若手の羨望の的になるこれら業績は高く評価されながらも、実は過去に本賞の受賞を逸した経緯がありました。氏の研究スタイルは生態学的に興味深い体内共生に関する新事実と現象の裏にある至近的メカニズムをミクロ生物学分野の最新分析テクニックを駆使し次々と明らかにしていくというものですが、発見事実に対する生態学的位置づけが十分行われていないとの疑問が委員から示されたのが理由でした。今回の再応募では推薦者によりこれも生態学者の近未来像のひとつとしての位置づけが行われました。委員会では位置づけは正当であると判断され、細川氏を宮地賞候補者として推薦するのに相応しい人物との一致した結論が下されました。

選考委員会メンバー:河田雅圭,齊藤隆,杉本敦子,辻和希(委員長),津田みどり,永田 俊,井鷺 裕司,久米 篤,宮下 直

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