日本生態学会

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第17回(2013年) 日本生態学会宮地賞受賞者

塩尻かおり(京都大学白眉センター)
中村誠宏(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)
舞木昭彦(龍谷大学理工学部環境ソリューション工学科)


選考理由

塩尻かおり氏
塩尻かおり氏は、(1)昆虫による食害を受けた植物が、植食者の天敵を呼び寄せる揮発性物質を放出すること、(2)植物が自身の血縁度の他個体と非血縁個体とを識別して、揮発物質の放出を変化させること、(3)植物が放出する揮発性物質が、植物-捕食者天敵、植物-植物病原菌間の相互作用など共進化の過程において重要な役割を果たすこと、(4)夜行性昆虫において、採餌行動の日周性を制御する要因が、光刺激ではなく、植物由来の香気成分の昼夜の変化である場合があることを発見、研究してきた。とくに植物揮発性物質が媒介する生物間相互作用ネットワークという概念の提出、植物間コミュニケーションの進化と生物多様性の視点、植物の遺伝的基盤の制御による共進化の解明などに、独創的な視点が見られ、そして分子遺伝学・化学・生態学を横断して解析を行うことで、本分野の研究を国際的にリードしている。これらの研究の成果は、PNAS、 Ecology Letters、 PloS One、 PloS Biologyなどの雑誌に発表され、本人自身のオリジナリティーが高い、新規な発見が含まれていると評価される。過去12年の間に公表された査読付き国際誌の論文30編に加え、植物のかおりと昆虫類との生物間化学情報ネットワークに関する著書、総説も執筆し、生態学会においても多くの発表を行なっている。以上の理由により、塩尻かおり氏は、日本生態学会宮地賞の受賞者として相応しいと判断する。

中村誠宏氏
 中村誠宏氏は樹木と昆虫の相互作用を中心に研究を進めてきており、局所的な空間スケールから地理的な空間スケールまで、また気候変動までも視野にいれて、相互作用系の研究を展開している。これまでの主要な研究成果として、(1)ミズナラの枝を人工的に温める実験をおこない、着葉期間が延長されることや堅果生産数が増すことを示した、(2)撹乱後の植物の補償成長やタマバエによるゴール形成などが、昆虫間のプラスの相互作用をもたらすことを、ヤナギ類を対象に明らかにした、(3)樹冠や林床における葉群分布や葉の形質の不均一性が植食者昆虫による食害度に及ぼす影響を、土壌栄養塩や樹木の遺伝構造と関連付けて解明した、(4)ミズナラの枝、および土壌を人工的に温める操作実験を行い、枝の温度は食害度に影響を示さなかったが、土壌の温暖化は葉の防御物質の増加をもたらし、食害度が低下したことを示した。これらの研究の成果は、Agricultural and Forest Meteorology、Journal of Animal Ecology、Functional Ecology、Oikosなどに発表されており、生態学会誌に総説(和文)を発表している。生態学会では、大規模長期生態学専門委員を務めている。以上の理由により、中村誠宏氏は、日本生態学会宮地賞の受賞者として相応しいと判断する。

舞木昭彦氏
舞木昭彦氏は、群集生態学における中心テーマである多様な種の共存機構を理論的視点から精力的に研究してきた。種間の競争関係、捕食-被食関係、外的環境の栄養条件、種特有の生活史に依存して決まる群集の安定性解析に加え、適応と個体群動態に関しても表現型可塑性の共進化が個体群動態を安定化させることを示すなど、斬新な仮説を多く提唱している。これらの成果は、Evolution, Proceedings of the Royal Society B, Journal of Animal Ecology, Oikosなどの国際誌に20編の論文として発表されている。なかでも、生態学で古くから関心を集めており現在の環境問題の重要課題としても注目されている生物多様性の維持機構を、種間相互作用の多様性という新しい仮説から説明する理論を提唱し、Science誌に発表している。この研究は、共生、競争、捕食—被食という種間関係を個別に研究するのではなく、これらを多様な相互作用として丸ごと取り扱うモデルで表現した新しいものであり、多くの分野への波及効果が期待される。生態学会では、自らの発表に加えて、企画シンポジウムや集会を積極的に開催してきた。以上の理由により、舞木昭彦氏は、日本生態学会宮地賞の受賞者として相応しいと判断する。

選考委員会メンバー:宮竹貴久,谷内茂雄,吉田丈人,粕谷英一(委員長),酒井章子,綿貫豊,大手信人,佐竹暁子,正木隆

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