日本生態学会

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第13回(2020年) 日本生態学会大島賞受賞者

今井 伸夫(東京農業大学 森林総合科学科)
森田 健太郎(国立研究開発法人水産研究・教育機構)


日本生態学会大島賞には1名の自薦および1名の他薦による応募があった。今井伸夫氏、森田健太郎氏ともに重厚な野外研究を続けて優れた業績を挙げていたことから、両名を受賞候補者として選定した。

選考理由

今井 伸夫氏
今井氏は 2006年より13年間にわたって、ボルネオの広大な木材生産林において、環境配慮型の森林管理を支援する仕組みを構築するという大きな目標のもとに、生物多様性及び生態系元素循環を記載する仕事を精力的に展開してきた。伐採強度や森林管理法の異なる様々な森林の客観的な比較を可能とするために、マレーシア領北ボルネオとインドネシア領東カリマンタン州に、それぞれ100個の直径20 mの円形プロットを設置し、空間的に異質な伐採後二次林の効果的なサンプリング法の確立をした。これにより、実際に木材生産も行われる広範囲の熱帯林で、生物多様性や炭素貯留効果を定量的に評価してきた。その成果は、持続的森林管理と炭素貯留効果の達成に向けての政策構築にも重要な科学的知見である。また、0.2 haから2 haの森林プロットを設置し、木材生産林における生態系の元素循環、ことにリンの循環について世界に注目される成果を上げてきた。これらの一連の研究成果は、環境配慮型の森林管理の持続性を証明するもので、大きな社会的貢献といえる。また、今井氏が集積したボルネオ熱帯林の樹木多様性のデータは学術的ビッグデータ解析にも重要な位置を占め、日本の生態学の国際ネットワークへの参画にも大きく貢献してきた。今井氏は、現地共同研究者や後続の若手の日本人熱帯林研究者にも大きな信頼を得ており、日本生態学会においても活発な発表や企画集会・自由集会の企画運営を行い、若手育成にも務めてきた。東南アジアの熱帯雨林の持続的利用に関するエキスパートとして世界的に注目される存在となっている。チャレンジ性の高いフィールドワークを長期に渡って達成してきた今井氏は、学術と社会に貢献する生態学的データを創出してきた中堅研究者として、今後ますますの活躍が楽しみである。以上から、今井伸夫氏は、「野外における長期生態学的データの蓄積などにより生態学の発展に寄与している会員に与える」、という大島賞の趣旨に大変よく合致する研究者と評価する。

森田 健太郎 氏
森田氏は、サケ科魚類の生活史や個体群過程に関する長期のフィールド研究を継続してきた。自らが収集した重厚な多地点データや長期データに基づいて、数理モデル解析や時系列解析を実施することで、一般性のある論理を構築・提案する研究成果を数多く挙げている。また、その研究過程では、ダム、外来種、漁業、および地球温暖化が、サケ科魚類の生活史や個体群過程に及ぼす影響に関する研究も数多く実施されており、野生生物保全や水産資源管理への貢献も非常に大きい。生態学に関する顕著な業績の一つとして、降海多型のあるサクラマス-ヤマメ個体群において、水温上昇によって河川残留型ヤマメの頻度上昇と降海年齢の早期化が生じることで、個体数の変動幅が大きくなることを、実証データと数理モデル解析を統合するアプローチで示した研究がある。これは、生活史研究と個体群研究をつなぐ先駆的な研究成果であり、かつ気候変動の影響予測という点で応用面でのインパクトも高い成果である。保全生物学に関する研究業績としては、北海道の52河川でイワナの生息調査を実施し、横断工作物による集団の隔離年数が長く、かつハビタットサイズが小さい河川で、絶滅リスクが高いことを示した研究論文がある。森田氏は近年、この論文で調査した河川を15年後に再調査し、実際に局所絶滅が生じていることを示して論文発表をしている。これは、長期生態学研究がいかに大切かを知らしめる野外研究である。また、多くの野生生物同様、サケ科魚類の保全・資源管理において、外来種は大きな問題である。森田氏は、在来イワナと外来のブラウントラウトとニジマスの(潜水観察による)生息数調査を30もの河川区間で16年間継続し、多地点データに基づく因果推論法(multispatial CCM)を適用することで、両外来マスがともに、在来イワナの個体数変化の原因になっていると結論している。今日的な統計解析により、外来マスが在来イワナの減少の原因になっていることを示した本論文の成果は、今後のサケ科魚類の資源管理策にも重要な知見となる。以上、森田氏は、類まれなるフィールドワークと数理・統計解析を統合する研究アプローチにより、生態学の発展に大きく貢献しており、日本生態学会大島賞の受賞者として相応しいと評価する。

選考委員会メンバー:井鷺裕司、北島薫、東樹宏和、内海俊介、岡部貴美子、三木健(委員長)、佐藤拓哉、辻和希、半場祐子

なお、選定理由紹介順は応募(推薦)順である。

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