日本生態学会

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第7回(2019年) 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞者

青柳 亮太(スミソニアン熱帯林研究所)
京極 大助(東北大学大学院 生命科学研究科)
中濱 直之(東京大学大学院 総合文化研究科)
山口 諒(首都大学東京大学院 理学研究科)


日本生態学会奨励賞(鈴木賞)には10名の自薦による応募があった。受賞に値する優秀な応募者が多く、選考は困難を極めたが、これまでの研究業績と科学者としての自立性、今後の研究発展への期待を総合的に評価し、特に優れていると評価された青柳亮太氏、京極大助氏、中濵直之氏、山口諒氏の4氏を選出した。

選考理由

青柳 亮太 氏
青柳亮太氏は、熱帯雨林を対象として、膨大な量のフィールドワークに基づくデータを武器にした重厚な研究を展開している。養分の不足する東南アジア熱帯の森林において植物の適応を議論した論文では、植物組織間での元素組成の違いに着目して、独自性の高い研究を行っている。また、東南アジア熱帯林の一斉開花現象に着目した研究では、55個ものリタートラップから定期サンプリングを行い、リターに含まれる元素濃度の動態を明らかにしている。マグネシウムや窒素、カルシウムが一斉開花によって変化しない一方、リンとカリウムの濃度が一斉開花の有無で変化することを示しており、大変興味深い。総じて、粘り強いフィールドワークを基礎として良質な研究成果を挙げてきていることが窺い知れる。現在、Smithsonian Tropical Research Instituteで研究を行っており、海外へ積極的に挑戦しようとする姿勢も高く評価できる。また、森林管理や保全にも強い意志で関わっていることが窺い知れ、基礎研究のレベルの高さだけでなく、社会的責任を果たそうとする姿勢についても、高く評価することができる。日本生態学会においては、自由集会を企画するだけでなく、英語口頭発表における最優秀賞1回、ポスター賞最優秀賞を3回、優秀賞を1回受賞している。過酷な熱帯域における研究を牽引していく期待の若手であり、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと判断する。

京極 大助 氏
京極大助氏は、マメゾウムシ類における繁殖干渉に注目し、進化現象と生態現象の相互作用に関する研究を進めており、明快な仮説にもとづいて検証実験や理論アプローチによる優れた研究を行ってきた。性選択という進化生物学の理論を繁殖干渉の強度の違いに結び付ける実証研究では、オス交尾器の加害形質が発達しているほど他種メスを傷つけ適応度を下げること、さらに、性選択の強度を操作した実験進化では、より強い性選択のもとで進化したオスが他種メスの適応度をより低下させることを明らかにした。個体群動態と繁殖干渉の強さを関連付けた研究においても、重要な成果をあげている。繁殖干渉が密度効果によって希釈されて生じるアリー効果の検出、絶対密度の重要性を考慮した個体群動態理論モデルの構築と実験データによる実証、というように質の高い発想と方法に基づいた研究も特筆に価する。一連の成果は、Evolution、Journal of Evolutionary Biology誌、Scientific Reports、Population Ecologyなどの国際誌に9編の学術論文として発表されている。さらに、国際誌上での特集を責任者としてオーガナイズし、生態学会大会における集会の企画も活発に行っている。以上のように、京極大助氏は、今後の活躍が大いに期待される若手研究者であり、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと判断する。

中濱 直之 氏
中濱直之氏は、草原や里山などの半自然生態系を対象に、絶滅が危惧される昆虫や植物の保全生態学的研究を行い、特に種の保全の基盤となる遺伝的多様性保全に果敢にアプローチしている。また、博物館の保存標本の価値について具体的な評価を行っているほか、保全手法についても研究してきた。2015年にPlant Ecology誌に発表された論文は、既に野外では絶滅した対立遺伝子を、博物館の保存種子標本から発見したことを報告しており、博物館における標本保存のインセンティブを高めた重要な成果である。また、日本では多くの種の絶滅が危惧されている半自然草原生態系において、草刈りのタイミングによる遺伝的多様性保全への効果を評価し、その結果をAgriculture, Ecosystem and Environment誌に発表した。このことにより、対象地域の誰もが保全に参画する礎を提供した。さらに標本由来の断片化したDNAに適用可能な集団遺伝学的解析手法を開発し、それらを用いて過去から現在までの遺伝的多様性・構造変遷を解明すること可能にした成果をHeredityで発表している。これらを含む研究成果は、24報の学術論文として国際誌や国内の保全関連の学術誌に発表されているほか、生態学会大会等で活発に発表されている。また一般市民のための野外観察会やセミナーでも積極的に講師を務めるなど、将来にわたっても生態学における科学的アプローチと社会実装が期待される。以上のように、中濱直之氏は、生態学の優れた若手研究者であり、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと判断する。

山口 諒 氏
山口諒氏は、種分化過程の理論的解明を通じた種多様性の時空間パターンの解明を目標とし、進化生態学の研究を進めてきた。主な研究テーマは、これまで理論的には意外性がないとして数理理論の構築が遅れてきた異所的・側所的種分化である。特に2017年にJournal of Theoretical Biology誌に発表された論文では、不和合性と遺伝的距離の関係について様々な関数を想定し、側所的種分化が生じるまでに要する時間についてモデリングと解析をおこなった。その結果、種分化に至る前に長期間にわたって足止めされる障壁として働くような、遺伝的距離の中間レベルの閾値(Tipping Point)が存在することを発見した。その他の研究成果も含め種分化に関する研究成果は、計算機シミュレーションによる個体ベースモデルや常微分方程式を用いた決定論モデル等の比較的容易な手法だけではなく、種分化に至るまでの突然変異の蓄積や移入という確率過程を定量的扱うことのできる偏微分方程式や確率微分方程式などの高度な数学的手法も用いることで初めて可能になったものである。また、これらの研究は山口氏のもう一つのスキルである昆虫分類学の知識を背景に、ゲノムデータ等による立証が可能な、未知のパターンを含む予測を提示しており、実際に新規パターンの発見につながっている。 これらを含む研究成果は、10報の英語学術論文として国際誌に発表されているほか、生態学会大会等での発表や企画も行っている。また商業誌における解説記事の執筆による普及活動にも積極的であり、将来にわたっても生態学への貢献が期待される。以上のように、山口諒氏は、生態学の優れた若手研究者であり、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと判断する。

選考委員会メンバー:東樹宏和(選考委員長)、岸田治、塩尻かおり、土居秀幸、井鷺裕司、北島薫、内海俊介、岡部貴美子、三木健

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