日本生態学会

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会長からのメッセージ -その6-

「鳥学者と生態学」

 日本鳥学会創立100周年、おめでとうございます。わが日本生態学会は2013年に60周年を迎えますが、それよりはるかに長い歴史を持っていらっしゃることに敬意を表します。

 日本の鳥学者は、生態学の発展に大きく貢献されてきました。中村浩志さんをはじめとするカッコウの托卵の研究は世界的に高く評価されています。山岸哲さんや上田恵介さんをはじめとする鳥の行動生態学、樋口広芳さんの渡り鳥の衛星調査など、生態学会でも注目されていました。鳥の研究者の師匠は必ずしも鳥学者ではなく、また鳥学者の弟子が他の分類群の研究者となる例は多々あるようです。その意味では、生態学や生理学などの研究室のなかで、鳥を対象とする研究者が育っているといえるでしょう。

 私個人として、多くの鳥学者に様々なご指導をいただいてまいりました。この場を借りて以下の方々にお礼申し上げます。阿部学さん、山岸哲さん、橘川次郎さんらは応用生態工学会の創立と発展に多大な貢献をされ、日本の環境影響評価の手法確立に貢献されてきました。植田睦之さんには猛禽類の絶滅リスク評価手法をご助言いただきました。由井正敏さん、上田恵介さん、植田睦之さん、天野達也さんらには、風力発電の鳥衝突問題でご指導いただきました。須藤明子さんと亀田佳代子さんには、滋賀県のカワウ漁業被害防止対策事業で大変お世話になっています。一時期私の研究室に所属した山口典之さんには、統計学を含め、学生たちの研究指導を行っていただきました。私の元学生にも鳥学会員が2名います。また、私が日本生態学会の雑誌「保全生態学研究」の編集長を務めたときに、藤岡正博さんと早矢仕有子さんに編集委員としてご助力いただきましたし、江口和洋さんには2年前まで日本生態学会の幹事を務めていただきました。

 どの分野でもそうですが、大御所が定年を迎える時、その後継者が手薄になるという印象は否めません。定年を迎える方と新たに学会を担い始める若手では、実績や存在感が違うのは当然のことです。それを承知で申しますが、上述の方々の中にこの2,3年で定年を迎えた方や迎える方が何人かいらっしゃるようです。今後とも鳥学を志す学生たちが育っていく環境を整えるべく、より若い方々のご活躍を期待しています。また、日本生態学会としても、分類群の枠を超えて、鳥を含めた生態学の若手を育てる環境を整えていく所存です。他方、昨今の環境問題の主流化の中で、アマチェアと専門家の協働も一層重視されつつあります。以前からそのような体制をとっていらした鳥学会は、科学と社会の新たな在り方の一つのモデルとなることでしょう。次の100年に向けた長期的視野をもった人材の台頭を望みます。

日本生態学会長 松田裕之

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