日本生態学会

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会長からのメッセージ -その15-

「論文の不正投稿問題について」

 世間では、様々な分野の研究者がデータを改ざんしたり学術誌への二重投稿が発覚したりして、発表した論文が取り消されることが頻繁に報道されている。このような話は生態学とは無縁のものと思われるかもしれない。しかし、大なり小なり問題になりそうな話はいくつか考えられる。

  1. 論文の二重投稿。論文を投稿する際に、「この論文の内容は今まで公表したことはなく、貴誌のみに投稿している」などと誓約することになっているのはご存知だと思う。しかし、たまに、ほかの雑誌と同時に投稿するような例を聞く。掲載された内容ではないので、2つの雑誌に同時に投稿してもばれないし、一方が受理された時点で他方を取り下げればよいと思うかもしれない。しかし、学界の世界は意外と狭いもので、これはしばしば露見する。万一論文が受理されたとしても、二重投稿が露見すれば受理が取り下げられる。さらに、掲載された論文でも後から取り消し処分となることがある。掲載論文取り消しはデータの改ざんだけが理由ではない。二重投稿は研究者倫理の面からは重罪であり、著者にとって致命的な汚点となる。雑誌によっては共著者全員がブラックリストに載り、その雑誌には投稿できなくなる可能性もある。

  2. アイデアやデータの盗用。掲載された論文の盗用は論外である。しかし、盗用か否かの判定は難しいことも多い。特に投稿された論文のアイデアやデータが未公表の場合には判定が難しい。最近では、大学や研究機関は組織的に実験ノートをつけるように指導している例も多い。電子メールの記録も残る。これらは、データやアイデアの盗用や、最初誰が発案したかなど、後でトラブルが発生したときの証拠となる。自分では盗用したつもりは全くなくても、引用方法が不適切であったりすると、盗用と訴えられることもある。逆に自分のアイデアや論文が盗用されたと思った場合には、冷静になってよく事実を確認してから、掲載誌などに連絡すべきである。自分では盗用されたと思っても、それは周知の事実であったり、何かのゼミで話をしたことを、被疑者がさらに発展させて論文にしたとみなされる場合など、盗用とは判定されないこともありうる。そのような事態にそなえるためにも、実験や調査、発表の記録は重要である。

  3. データの改ざんや捏造:データがもう少し美しければ見事な結果だと思うことは、多くの研究者が感じることがあるだろう。しかし、データを恣意的に操作することは、研究にたずさわる者として決してやってはいけないことである。仮説が正しければよいと思うかもしれないが、これは科学的考え方と正に正反対である。科学の重要な価値はその証拠を見つける過程自体であり、そこをおざなりにすべきではない。また、そもそも仮説が正しいという保証は無い。データの美しくない部分に新しい発見が隠されていることは多い。

 さらに深刻なのは、指導教員あるいは研究グループのリーダーがデータの改ざんを「教唆」する場合がありえることだ。そうだとしても、主著者である学生や研究員は責任を免れない。しかし、その「教唆」に逆らいにくい場合もあるだろう。これもパワーハラスメントの一つになりえる。そのような場合には、信頼できる方に相談することを薦める。相談できる相手が周囲にいないときは、相談する具体的中身、相談したい人物が自分自身であることを伏せてなら、相談できる相手が見つかるかもしれない。あるいは、相談できる相手を紹介することなら、私にもできるだろう。

2013年4月30日

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