日本生態学会

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会長からのメッセージ -その18-

「生物科学学会連合の緊急声明」

日本生態学会会員の皆様

 「日本版NIH(仮称)」(参考1)に関して重大な懸念があるとして、我が学会が加盟する生物科学学会連合(生科連)が、6月10日に緊急声明を出しました。これは9日の生命科学系7学会の共同声明に続くものです。日本分子生物学会の大隅典子会長のBlogに、問題点がわかりやすく指摘されています。

 土曜日に生科連の会合があり、本会から大手信人常任委員が参加し、緊急声明が議論されました。あまりに緊急なことでしたが、重要性を鑑みて、急ぎ常任委員会でメール討議を行いました。その過程で、ボトムアップ型の基礎研究の重要性を喚起する点は一致しましたが、省庁の枠を越えた研究費を設立するという動きに対してもっと評価してもよいという意見もありました。そのため、以下のような内容の代替案を提示することを検討しました。ただし、この代替案も常任委員会の総意ではありませんし、大幅な変更は時間的に不可能と考えられました。末尾の最終案には、省庁の枠を越える試み自体に敬意を表することが加筆されています。事態の重要性にかんがみ、最後は会長判断として、会長名で名を連ねることを判断させていただきました。

 本来ならば、全国委員の皆様に諮り、一般会員の意見も聞く機会を設けた上で行動すべきところです。しかし、多くの関連学会が、やはり緊急動議に応えて名を連ねていることから、同様の判断を下したと思われます。ご理解いただければ幸いです。

 他方、より文言を練り、会員の声を集約した意見を提示することも必要と思います。

共同声明にある、以下の文言に強く同意するものです。

  • 国民の健康を支える医療を革新するための研究開発は国として重要な施策に位置づけられることは論を待たず、そのために省庁の枠を越えた研究費を設立することなどは大いに試されるべき構想と考えられます。一方で、4月23日付けで公開されている「日本版NIHの骨子」の資料を拝見するかぎりでは、その中味が必ずしも充分に検討されておらず、構想だけが一人歩きしているような感があります。
  • 研究者の自由かつ多様な発想に基づくボトムアップ型の基礎研究は、学問の根源を成すものです。このような研究の機会を減じることは、真のイノベーションを損なうものとなりかねません。学問分野には多様性が必要であり、医療という出口を目指したものだけが基礎研究として支援されるようなことがあってはなりません。
  • 「日本版NIH(仮称)」では、内閣に推進本部を設置し、医療分野の研究開発関連予算を一元化し、戦略的・重点的に予算配分を行うとしています。しかしながら、現在でも米国に比べて予算規模が圧倒的に少ない日本において、医療分野に特化した研究開発を偏重することは、限られた資源配分方針に混乱を招き、学問の自由と未来を奪うことになるのではないかと、我々は懸念しています。具体的には、科学研究費補助金(以下、科研費)は研究者の自由な発想に基づくボトムアップ型の研究をサポートするほぼ唯一の公的研究資金であり、これによって支えられている研究者は10万人をはるかに越えております。我が国の学術研究の多様性を担保し、次世代の多様な研究人材育成の重要性を認識すべきです。

 上記の理由により、日本版NIH(仮称)」の設置に際しましては、将来の学術、とりわけ生命科学の発展に大きな影響を与えることも予想されます。「日本版NIH(仮称)」の設立には、我が国の学術研究の多様性と次世代の多様な研究人材育成に十分な配慮が必要と思われます。

 緊急声明の文言、および上記意見についても、さらにご意見をたまわりたいと思います。また、この問題について他の関連学会と連携を取りながら進めて参るつもりです。

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