日本生態学会

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「外来種管理法(仮称)」の制定に向けての要望書

 近年、生物多様性の保全は国際的に緊急かつ最重要の課題であると認識されている。国際自然保護連合IUCNによって、外来種は、長期的な視点に立てば生息環境の破壊をしのぐ、生物多様性にとって最大の脅威として位置づけられている。日本も締約国になっている生物多様性条約の第8条には「生態系、生息地、若しくは種を脅かす外来種の導入を阻止し又はそのような外来種を抑制しまたは駆除すること」と明記されている。

 日本生態学会は、外来種の現状把握および一般市民への普及・啓発を目的として、本問題に取り組み、一昨年以来「外来種ハンドブック」作成に向けて努力をしてきた。その結果、日本には哺乳類から昆虫、寄生虫、陸上植物、水生植物に至るまで数多くの外来種が現に存在し、在来種に多大な影響を与えている実態が判ってきた。このような現状をもたらした原因は,日本には生物多様性保全の観点から外来種を管理するための法律が存在しないことにあると考えられる。

 こうした現状を放置することは、将来世代の生物多様性を損なうとの判断から、外来種の管理を行うため、第5回生物多様性条約締約国会議(2000年5月及び2001年3月)中間指針原則「生態系、生息地及び種を脅かす外来種の予防、導入、影響緩和のための指針原則」および国際自然保護連合IUCN(2000)の「外来侵入種によってひきおこされる生物多様性減少阻止のためのIUCNガイドライン」を基礎として、下記のような内容の「外来種管理法(仮称)」の制定を要望する。

A 予防的措置

  1. 外来種の意図的導入に関して、輸入は国の許可を得ることを義務づけ、違反に対しては罰則規定を設ける。
  2. 外来種の導入を意図した者は、輸入および国内での利用に先立って、当該種が生物多様性に与える影響に関してリスク評価を行った上、国が設置したしかるべき機関に輸入申請書を提出する。
  3. リスク評価には不確定性が伴うので、予防原則に基づき科学的に影響が極めて軽微であると判断されない限り、導入は原則として禁止する。
  4. 外来種の非意図的導入(随伴・混入)を阻止するため、移入経路を特定し、それに関連した業者などにリスク評価を行わせるなど、積極的なプログラムを計画実施する。
  5. 外来種の管理のための日本向けのガイドラインを、国際自然保護連合IUCNの作成したガイドラインに準じて作成する。

B 現存する外来種の管理

  1. 現存する外来種に関しては、生物多様性に与える影響の大きさを考慮して、当該種の影響の大きさに関するランク付けを行う。また、外来種が地域の生物多様性の保全に脅威を与えている実態を把握して、脅威が大きな場所から優先的に駆除または制御するためのランク付けを行う。これらのランクに応じて管理の優先順位を決定し、撲滅を目標として具体的な対処を行う。
  2. 管理対象となる種又は地域に関して、生態学的な理解とモデルに基づく外来種管理計画の策定を行い、地域住民とともにプログラムを実施する。これらの計画の策定や実施に関しては、その過程を全て公開として、公聴会を義務づけるなど透明性を確保する。

C 普及・啓発

  1. 外来種の管理には一般市民の協力が必須なので、外来種に関するデータベースを作成し、情報を誰もが容易に入手できる体制を整える。
  2. 外来種の管理に当たっては広く情報を公開し、一般市民がそれに意見を述べることができる体制を整える。
  3. とくに初等教育を含む学校教育および生涯教育において、外来種に関する普及・啓発などを積極的に行う。

以上決議する。

2002年3月28日
第49回日本生態学会大会総会

提出先:環境省大臣

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