日本生態学会

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日高横断道路(道道静内中札内線)の工事中止を求める要望書

 日高横断道路は、日高支庁静内町から日高山脈核心部となるカムイエクウチカウシ山・コイカクシュサツナイ岳間を経て十勝支庁中札内村に至る、総延長101.2 kmの道路計画である。この計画は、1980年に一般道道の認定を受け、翌1981年には建設省(現国土交通省)による開発道路の指定を経て、1984年にその一部が着工されている。

 日高山脈は、知床国立公園および大雪山国立公園とともに我が国を代表する原生自然地域である。日高山脈は、日高変成帯と呼ばれる特異な地質、急峻な地形、海岸線から高山帯にまたがるユニークな生態系、極めて豊かな動植物相の存在に特徴づけられる。日高山脈と隣接地域の維管束植物は、ゆうに1000種を超え、その中には我が国北方域を特徴づけるヒダカゲンゲ、ヒダカミネヤナギ、ヒダカソウ、カムイコザクラなどを含む33の固有植物が自生し、生物多様性の観点からも高く評価されている。

 道路建設予定地は、標高700 m以下であるが、急峻な地形と関連して雪崩道や崩壊地・崖地が発達し、高山植物や高山性動物が出現する。予定地には、ヒダカオトギリ、イワブクロなどを含む50種に及ぶ高山植物やエゾトウウチソウ、ソラチコザクラ、オオイワツメクサなどの絶滅が危惧される植物が自生している。しかしながら、北海道庁および北海道開発局による環境影響評価書(1979年、1984年)では、「保全目標」をエゾナキウサギ生息地やエゾマツ・トドマツ林などの限定された小面積に限っており、道路建設によりこれらの貴重な植物の生育地は根底から破壊されることが懸念される。事実、斜面崩壊は、評価書における当初の想定を遙かに上回る規模で頻繁に生じており、工事による自然破壊は、河床植生を含みすでに座視できないレベルに達している。

 また、道路建設による動物の生息環境や移動経路の分断が随所で引き起こされることが懸念され、事実、エゾヒグマや多数の小型・中型哺乳類の行動は著しい影響を受けている。 日高横断道路の建設は、上述したように、道路建設コースの沿線環境はもとより、この地域の豊かな自然景観をその根底から改変するものであり、我が国におけるこの類い稀なる生物相が存在する地域の自然を大規模に破壊することになる。

 道路建設予定地の自然の過小評価、ずさんな環境影響評価書に基づく工事計画、そして工事の環境に及ぼす影響はないとする評価書の結論は、この地域の自然環境の実態とは極めてかけ離れたものであり、すでに進行中の工事によって地域の動植物相は極めて重大な影響を被りつつある。現状より判断すると、本道路建設による自然破壊は今後さらに甚大なレベルに到達することが危惧され、日高山脈の貴重な自然に計り知れない大きな影響を与え、我が国有数なこの地域の自然を喪失することが懸念される。

 ここに、日本生態学会は、日高横断道路計画がすみやかに中止されることを要望するものである。

2002年3月28日   日 本 生 態 学 会

提出先:環境省大臣 国土交通省大臣 北海道知事

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