日本生態学会

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絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)改正に対する意見書

日本生態学会自然保護専門委員会 委員長・矢原徹一

 2011 年12 月22 日、本学会は貴省のパブリックコメントに対し、「絶滅のおそれのある野生生物の保全施策に関する意見」(別添)を提出し、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(以下、種の保存法)」の国内希少野生動植物種の指定推進、国としての調査研究・モニタリング体制の充実などを求めました。

 しかし、今回の種の保存法改正には、国際希少野生動植物種に関する規制強化が盛り込まれているのみであり、本学会が2011 年に提案した保全施策とりわけ国内希少野生動植物種の指定、保全施策の推進に関する内容は含まれていません。国内希少野生動植物の保全は、「絶滅のおそれのある野生生物種の保全戦略」によって対処すると聞きますが、法改正が必要な事項も存在します。

 本学会自然保護専門委員会は、改めて以下の点について強調するとともに、法改正が必要なものについては改正を検討するよう求めます。

  1. 種の保存法の国内希少野生動植物種の指定推進
    環境省版レッドリストに掲載された3,597 種の絶滅のおそれのある野生生物種のうち、種の保存法の国内希少野生動植物種に指定されているのは、わずか90 種に過ぎない。これは、環境大臣が中央環境審議会に諮問した生物種の指定を、審議会が指定すべきかどうか答申するという行政主導の指定 手続きをとっているためである。環境大臣が諮問した生物種のみを審議するのではなく、科学的見地から、絶滅のおそれの高い種、保全施策を積極的にとるべき種を選定し、環境大臣に指定を具申する権限を持った(仮称)科学委員会を設置して、国内希少野生動植物種の指定を推進すべきである。
  2. 沿岸・海洋の絶滅危惧種の保全施策の推進
    種の保存法の国内希少野生動植物種の指定は、陸上・陸水の生息生育する生物種に限定されており、沿岸・海洋に生息生育する生物種は、一種たりとも指定されていない。これは、1993 年4 月に水産庁長官と環境庁自然保護局長との間に結ばれた覚書に基づいているが、沿岸・海洋の生物種に絶滅 危惧種がないわけではなく、むしろ沿岸・海域(とくに河口・砂浜・干潟・藻場・サンゴ礁など)にこそ絶滅危惧種が集中している。環境省は、沿岸・海洋に生息生育する野生生物種のレッドデータブックの作成を急ぐとともに、水産庁との覚書を見直し、沿岸・海洋に生息生育する絶滅危惧種の保全 施策を推進すべきである。
  3. 里地里山の絶滅危惧種の保全施策の推進
    陸上・陸水の野生生物種の危機要因は、開発、捕獲採取のみならず、草地・雑木林などの里地の遷移の進行、中山間地からの農業の撤退などに起因するものが多い。現行の種の保存法は、規制的手法による保全手法に依存しているが、英国の環境スチュワードシップ制度のように、農林水産業や市民 活動に対する奨励的措置を種の保存法にも位置づけることによって、多様な保全施策がとれるようにすべきである。また、里地里山の絶滅危惧種に対しては、種ごとの保護増殖計画を策定するよりはむしろ、水田、ため池、雑木林などハビタット毎の保護回復計画を策定することがふさわしい。このような生物種群を、(仮称)第2 種国内希少野生動植物種として選定し、捕獲・譲渡し規制よりも、生息生育地管理に重点をおいた施策がとれるよう、種の保存法を改正すべきである。
  4. 絶滅危惧種の調査研究・モニタリング体制の充実
    レッドデータブックに記載された野生動植物の現状把握やモニタリング体制は、地域の研究者へのアンケート調査などが中心であり、現地調査に基づく現状把握は不十分である。絶滅危惧種の調査研究・モニタリングは、地域の研究者やNGO などに依存しており、国としての調査研究・モニタリング体制は、米国の魚類野生生物局などと比較して極めて貧弱である。生物多様性条約愛知目標12「2020 年までに、既知の絶滅危惧種の絶滅及び減少が防止され、また特に減少している種の保全状況が維持や改善」の達成のためにも、国立環境研究所等における研究者の増員、環境事務所におけるアクティングレンジャー等の増員をはかるべきである。

以上

送付先:環境大臣

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