日本生態学会

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第17回(2013年) 生態学琵琶湖賞受賞者

大手 信人(東京大学 大学院農学生命科学研究科)
中野 伸一(京都大学 生態学研究センター)

推薦理由

 大手信人氏は、国内外の様々な森林生態系を対象に水文過程を視点とする物質循環に関する研究を重ね、これまで英文和文合わせ122編に及ぶ学術論文、29編の総説論文、23編のブックチャプターを執筆している。これら研究は、論文の被引用数が900回を超えるなど、世界的に高く評価されている。大手氏は世界に先駆けて、森林の物質循環が生物過程のみならず水文過程を介して基岩などの地質環境や温度・降雨等の季節性にも強く依存しており、それゆえ欧米域とモンスーンアジア域では森林の物質循環の様相が異なることを示した。その一連の研究は際立ってオリジナリティーが高く、国際的に大きなインパクトを与えた。近年では安定同位体等を用いた新しい手法を駆使することで、例えば琵琶湖へ流入する硝酸の起源を詳細に解明するなど、集水域レベルでの物質循環研究を牽引するとともに、国際的な研究交流も推進している。
 このように、大手氏は生態学と水文学を結びつけることで集水域レベルでの先端的な物質循環研究を切り開いてきたが、その成果は科学者コミュニティーの視野と裾野を大きく広げるとともに、行政や政策決定にも影響を及ぼしている。研究においても、また社会的な影響力の面でも大手氏の業績は高く評価できることから、生態学琵琶湖賞にふさわしいと判断され、第17回生態学琵琶湖賞に推薦することとした。

 中野伸一氏は湖沼や沿岸など水界生態系の微生物群集について食物網過程と生態系の機能に関する研究を重ね、英文和文合わせて106編に及ぶ学術論文、3編の総説論文、18編のブックチャプターを執筆し、論文の被引用は600回以上に及んでいる。中野氏は、概念として先行しつつあった微生物ループについて、細菌・原生生物・動物プランクトンの生態的特性や個体群動態を丹念に観察し実験することでその実態と生物生産における普遍的な重要性について解明した。特に、琵琶湖で行った細菌食の鞭毛虫によるリン回帰に関する研究は、生態化学量論を裏付ける成果として、また栄養塩循環における原生生物の重要性を指摘するものとして世界的に注目された。さらに、湖沼の環境問題として懸念されるアオコ原因生物であるMicrocystisに焦点をあて、その繁殖や死滅に関わる物理・化学要因や食物連鎖での機能といった基礎研究とともに、国内外の研究者と連携し有害アオコの発生予報や拡散の実態など社会が必要とする応用研究も推進した。これら研究と並行して、アジア太平洋生物多様性ネットワークでは陸水分野責任者として活動し、アジア地域での研究連携を推進するなど国際的にもユニークな成果をあげている。
 中野氏の研究は、陸水学に軸足を置くものであるが、その研究成果は環境科学や生物多様性科学をも担うものである。研究においても、また科学コミュニティーでの貢献や社会的な活動においても中野氏の業績は高く評価できることから、生態学琵琶湖賞にふさわしいと判断され、第17回生態学琵琶湖賞に推薦することとした。

選考の経緯

 第17回生態学琵琶湖賞には、8名の応募があり(日本人7名・外国人1名)、選考は運営委員長より任命された7名の選考委員会委員により行われた(下記)。選考作業は平成25年2月7日より開始した。まず、応募者の応募書類を選考委員が精査し、研究成果の新規性と業績、学術的・社会的貢献、今後の発展性という観点から、相対評価を行った。この選考により、上位4名を一次選考通過候補者とし、候補者が提出した主要論文5編を精読して二次選考を行うことした。この二次選考では研究成果とそのインパクトに重点をおき各審査員10点満点で審査を行った。その結果、審査員全員一致で得点の高かった上位2名の応募者、大手氏と中野氏(あいうえお順)を最終候補者として運営委員会に推薦することとした。

選考にあたっての選考委員長の付記

 二次選考に残った4名の応募者うち、選に漏れた2名の評価も高かった。しかし、1名の方はオリジナリティーやユニークさの点でややインパクトに欠けていたこと、もう1名の方は学術・社会面の双方で非常に高い貢献をしていたが原著論文としての業績という点でやや見劣りしたため推薦を見合わせた。しかし、最終候補者とした方々と同様に、選に漏れた方々も水圏生態系やその周辺での研究を牽引し、今後の活躍が期待出来る人材である。研究を発展させることで、次回には有力な候補になり得ることを付記したい。

選考委員会メンバー:占部城太郎(委員長)、風間ふたば、川端善一郎、中島久男、中村太士、森 誠一、吉岡崇仁

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