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第19回(2017年) 生態学琵琶湖賞受賞者

Kenneth M. Y. Leung(School of Biological Sciences, The University of Hong Kong, Professor)

森田 健太郎(国立研究開発法人水産研究・教育機構北海道区水産研究所・主任研究員)

推薦理由

 Kenneth M. Y. Leung氏 は、環境毒性学、生態リスク評価、水圏生理生態学、水圏食物網解析、水産養殖、海洋生物多様性保全などのさまざまな学問分野において、基礎から応用にわたる幅広い分野横断型の研究を活発に推進してきた。Leung氏の研究は、水圏生物の環境毒性や生理生態に関する研究と、環境リスク評価及び統計生態学に関する研究に大別される。前者では、トリブチルスズ等の有機スズ化合物の環境毒性や、ナノマテリアルの水生生物への毒性がある。環境リスク評価等の研究では、熱帯域と温帯域の水生生物では化学物質の感受性が異なる事を解明した。これらの成果は、欧米などで用いられている環境毒性学基準が高温多湿な東南アジア熱帯域では必ずしも当てはまらないこと、および熱帯特有の環境生態特性を考慮した環境毒性学の必要性を示しており、学術的に極めて重要である。
 Leung氏の研究成果は145編以上の論文として公表され、論文の被引用数は2000回を超えている。特に,2011年以降は、環境化学や環境毒性学の分野で国際的にトップクラスの雑誌に論文を多く発表していることから、Leung氏は当該分野における国際的リーダーであるといっても過言ではない。また、Leung氏は、香港の海域におけるトロール漁禁止後の海洋生物モニタリングや、当該海域の海洋生物多様性の現状を公表するなど、研究成果の社会還元や生物保全活動にも熱心に取り組んでいる。
このように、Leung氏の業績は学術的貢献と社会貢献の両面で高く評価できることから、生態学琵琶湖賞にふさわしいと判断され、第19回生態学琵琶湖賞に推薦することとした。

 森田健太郎氏 は、サケ科魚類について、河川から海洋にわたる生活史の諸段階における生態学的研究を行ってきた。研究手法は、フィールド調査によるデータ収集と数理モデルを駆使した理論構築・検証とを合わせ持つ、包括的で論理実証的なものである。特に、人間活動によってもたらされた撹乱である、ダム、外来種、漁業、人工ふ化放流事業、地球温暖化に伴う水温上昇の影響に着目し、それらの撹乱がサケ科魚類の生活史形質の多様性、並びに個体群過程を通じて個体数変動に及ぼす影響について研究を進めてきた。
森田氏は、これまで71編に及ぶ学術論文、7編の著書、23編の報告記事を執筆しており、論文の被引用数は1200回を超えている。このことからも、森田氏が当該分野の指導的な研究者として世界的に注目されていることが伺える。ダムなどの河川工作物の建設の際に、魚道を付設することの端緒となった研究や、サケが成長を高めるために低温海域へと移動する適応行動の研究は、社会貢献が高い。
 このように、森田氏は地道な魚類行動観察に基づいて、室内実験による検証、数理モデルによる理論構築、さらには研究成果の社会実装までの、一連に関わる重要な成果を出している。研究においても、また社会的な影響力の面でも森田氏の業績は高く評価できることから、生態学琵琶湖賞にふさわしいと判断され、第19回生態学琵琶湖賞に推薦することとした。

選考の経緯

 第19回生態学琵琶湖賞には、10名の応募があり(日本人8名、国外2名)、選考は運営委員長より任命された7名の選考委員会委員により行われた。選考作業は平成28年12月5日より開始した。まず、応募者の応募書類を選考委員が精査し、今回応募のあった候補者の専門分野は、全て生態学の範疇で扱えるものと判断し、研究成果の新規性と業績、学術的・社会的貢献、今後の発展性という観点から評価を行った。この選考により、上位3名を一次選考通過候補者とし、平成29年3月13日よりこれら3名について二次選考を開始した。二次選考では、各候補者の研究分野がそれぞれ異なることから、各候補者が特に優れている研究成果について考慮するとともに、研究成果の社会的影響や貢献面を加え、総合的に評価した。
 その結果、審査員全員一致でLeung 氏と森田氏を最終候補者として運営委員会に具申することとした。

選考にあたっての付記

 二次選考に残った3名の応募者うち、選に漏れた1名の評価も極めて高かった。しかし、生態学琵琶湖賞の細則に「すぐれた研究者2名以内に授与する。」と明記されており、この1名の方の社会貢献が他の2名よりやや劣ること、およびこの1名の方よりも他の2名の方の専門分野がより生態学に近いことを理由として、上記の2名を最終候補者とした。この1名の方は、年齢が48歳であり、今回が最後の応募となる。が、審査委員は年齢よりも学術および社会貢献面での業績について第一に評価を行い、今回の結果となった。
 また、一次選考で選ばれなかった応募者にも、琵琶湖賞に相応しい十分な業績を有する方が何人もおられた。これらの方々は、いずれも学術および社会貢献において将来的に優れた成果を期待できる方々が多かった。

選考委員会メンバー:中野伸一(委員長)、今井章雄、大手信人、津田敦、徳地直子、中井克樹、中村太士

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